研究課題/領域番号 |
25461433
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
園木 孝志 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (30382336)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロRNA / B細胞性リンパ腫 / 分化阻害 / 発がん |
研究実績の概要 |
造血器腫瘍細胞にみられる染色体転座点近傍には発ガンに関わる重要な遺伝子が存在している。私たちは8番染色体長腕24バンドと17番染色体22バンドが転座(t(8;17)(q24;q22))しているヒト悪性Bリンパ腫患者をみつけた。この染色体転座は1989年に第一例が報告されており、私たちの患者が世界で第二例目である。2例とも8q24転座切断点近傍にはMYCが存在していた。2例の17q22転座切断点近傍にはBCL3と呼ばれる転写物が同定され、t(8;17)(q24;q22)を示す腫瘍細胞ではこの転写物の過剰発現していた。BCL3は造血器由来細胞に特異的に発現する非翻訳RNAであることが分かっていたが、その機能は不明であった。私たちはBCL3のエクソン内にmiR142があることを確認し、t(8;17)(q24;q22)を持つ腫瘍細胞でmiR142が過剰発現していることを世界ではじめて確認した。本研究ではmiR142の過剰発現がリンパ性腫瘍の発生にどのような役割をはたしているのか、レトロウイルスベクターを用いた「骨髄移植マウス」と免疫グロブリン遺伝子発現調節領域を用いた「トランスジェニックマウス」で検討した。どちらのマウスモデルでも腫瘍発生はなかったが、miR142を過剰発現させた血球はむしろ「減少」することがわかった。この結果は、miR142過剰発現は血球分化を阻害する可能性を示唆すると考えられた。現在、トランスジェニックマウスと野生型マウスのB細胞の遺伝子発現プロファイルを調べ、miR142がB細胞分化や腫瘍発生に果たす役割を明らかにしようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで行った実験はレトロウイルスベクターを用いた骨髄移植マウスモデルとトランスジェニックマウスモデルである。 骨髄移植マウスモデルの概略を以下に記す。マウスから骨髄細胞を採取し、GFPの下流にmiR142断片を組み込んだレトロウイルスベクターを感染させておく。他方で同系マウスに骨髄細胞を破壊するように放射線を照射する。その後、レトロウイルスベクターを感染させた骨髄細胞を尾静脈から投与する。フローサイトメトリーを使用してGFP陽性細胞を計測することでmiR142を組み込んだ骨髄細胞の運命を知ることができる。この実験の結果、miR142を組み込んだ細胞は、顆粒球系・リンパ球系ともに減少することが分かった。 トランスジェニックマウスモデルの概略を以下に記す。miR142断片を免疫グロブリン遺伝子発現調節領域の下流に組み込んだ遺伝子断片をマウス受精卵に注入し、仮母マウスにて出産させる。遺伝子断片を組み込んだマウス(トランスジェニックマウス)がある一定の頻度で生まれてくる。トランスジェニックマウスにおいては、B細胞においてmiR142が強制的に過剰に発現するようになる。私たちは、トランスジェニックマウスの末梢血・骨髄・脾臓細胞を採取してフローサイトメトリーで経時的に造血細胞の変化を調べてみた。現在まで生後2年間を観察できている。生後一年半経過したトランスジェニックマウスにおいて、脾臓における細胞表面IgM陽性B細胞が統計学的に優位に減少していることが分かった。 以上の結果からmiR142の過剰発現は造血細胞の分化を負に調節する可能性を考えた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、miR142をB細胞に過剰発現させるとIgM陽性細胞への分化が阻害されている可能性が考えられた。今後はmiR142が標的とする遺伝子を同定しようとしている。 1つはmicroRNAの標的遺伝子を予測するプログラムを用いた絞込みを行っている。miR142の標的遺伝子候補は約2000個があるが、造血細胞分化やB細胞性分化でアノテーションを絞り込むと、30個ほどになった。現在、1つ1つの遺伝子の発現レベルをqRT-PCR法で検討している。 他方、トランスジェニックマウスと野生型マウスの脾臓からIgM陽性細胞を磁気ビーズで分離したのちRNAを抽出して、cDNAチップを用いた網羅的発現解析を行っている。 上記の二つの方法でmiR142の標的遺伝子を絞り込んだ後、実際の遺伝子発現や蛋白発現をトランスジェニックマウスから採取したB細胞で見ていく予定である。 我々の研究成果はmiR142がリンパ腫発生に「分化阻害」により関与していることを明らかにしようとしている。また、microRNAによるB細胞分化調整という新たな研究フィールドを創出していくものと考えている。 得られた研究成果は年度内に国際学会に発表するとともに英文論文として公表することを考えている。
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