染色体転座点近傍には生理学的に重要な機能分子が存在し、その発現異常が発ガンに関わっている。私達は成熟B細胞性腫瘍患者の腫瘍細胞にt(8;17)(q24;q22)を同定した。8q24と17q22の染色体転座切断点近傍には、各々、MYCとmiR142があった。t(8;17)(q24;q22)を示した腫瘍細胞では、MYCとmiR142は他に比べて過剰発現していた。今回の研究では、骨髄移植(BMT)マウスとトランスジェニック(Tg)マウスを用いmiR142過剰発現の血球への影響を調べた。その結果、miR142過剰発現した血球は減少し、miR142過剰発現は血球の生育を阻害することが示唆された。 ①BMTマウス:miR142とGFPを組み込んだレトロウイルスベクターを作成し、マウス骨髄細胞に感染させた。感染骨髄細胞を、放射線照射にて骨髄機能を破壊した同系マウスに移植した。移植マウス末梢血をフローサイトメトリーで解析した。その結果、miR142を強制発現した顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球は減少することがわかった。 ②Tgマウス:miR142を免疫グロブリン遺伝子発現調節領域に組み込んだDNAを作成し、Tgマウスを作成した。Tgマウスの脾臓細胞をフローサイトメトリーで調べると、細胞表面IgM陽性細胞が野生型に比較し減少していた。このことからmiR142をB細胞特異的に強制発現させると、正常なB細胞の成育が阻害されることがわかった。 上述の結果からmiR142単独過剰発現は血球の分化を阻害して細胞死を生じ、成熟血球の減少に繋がるのではないかと推察した。実際の患者腫瘍細胞ではMYCなどのガン関連遺伝子が過剰発現しているため、miR142過剰発現による細胞死をオーバーカムし、分化が停止した細胞の腫瘍化が生じていると考えた。今回の研究ではmiR142が関与する多段階発癌の一端を解明した。
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