研究課題/領域番号 |
25461437
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
安部 明弘 藤田保健衛生大学, 医学部, 客員准教授 (00432261)
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研究分担者 |
恵美 宣彦 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (30185144)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ETV6 / LPXN / G-CSF / SDF1 / 細胞遊走 / ケモカイン |
研究実績の概要 |
ETV6-LPXN(EL) とNUP98-HOXA9(NH)との相互作用を調べるため、NHおよび両遺伝子をIL-3依存性白血病細胞株32Dに導入し32D/NH,32D/EL/NHを新たに作製し、サイトカイン反応性と顆粒球分化能を調べた。どの細胞もサイトカイン非依存性の増殖は得られなかったが、低濃度のIL-3存在下にてG-CSFに対し32D/NHでは増殖の増強が認められ、 32D/EL/NHにおいて最も強い細胞増殖効果が得られた。ELはNHと協調して、より強い細胞増殖を引き起こすと考えられた。また、G-CSFによる顆粒球分化への影響に関しては、32D/NH においても分化細胞は増加し、32D/EL/NH ではさらに増加した。NHが分化抑制、ELが増殖という単純な図式ではなく、増殖については相乗効果が認められた。 次に細胞遊走への影響を調べるため、EL、ETV6のPNT領域を除いたΔELおよびLPXNを遺伝子導入した32D/EL,32D/ΔELおよび32D/LPXNにおいて、CXCR4のリガンドであるSDF1(CXCL12)に対する遊走能を解析したところ、32D/ELにおいてIL-3がない状態でもSDF1に対し最も強い細胞遊走が認められた。ヒト急性骨髄性白血病由来細胞株NKM-1およびヒト赤白血病由来細胞株TF1においてもELを遺伝子導入することでSDF1に対する遊走能の増強が認められた。 ELによる遺伝子発現の変化を網羅的に調べるため、初診時と再発時の患者検体を用いてRNA-seq解析を行った。発現の増加する遺伝子として、CCL1,CCL2,CCL5などのケモカインの他、IL2RA,IL9RなどT細胞系に見られる遺伝子の発現増加が認められた。こうしたケモカインやサイトカインレセプター発現の変化が、G-CSFやCXCR4に対する反応性の違いとして現れた可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、急性骨髄性白血病患者の初発時に認められたNUP98-HOXA9融合遺伝子と、再発時に新たに付加したETV6-LPXN融合遺伝子との相互作用について、IL-3依存性細胞株32Dへ遺伝子導入して解析を行ってきた。細胞増殖に関しては、期待されたデータを得ることができた。細胞分化に関しては、NUP98-HOXA9が分化阻害に働く可能性を考えていたが、32DとG-CSFを用いた系では、分化阻害は少なく細胞を増やす方向に働くことがわかった。分化阻害は少ないものの、未分化細胞も数的には増加していると考えられた。また、増殖に関与するシグナル分子、MEK,ERK,AKTやSTAT,さらにはチロシンリン酸化パターンを調べたが、G-CSFに対するシグナル分子の反応の違いが明らかにできなかった。このため二つのアプローチを計画した。一つは、細胞接着や細胞遊走の違いにより増殖刺激を受ける可能性で、もう一つは、ETV6-LPXN発現による他の遺伝子の発現変化が白血病の悪化を招いた可能性である。サイトカインやケモカインに対する細胞遊走の違いについて調べたところ、ETV6-LPXN導入細胞においてSDF-1に対する細胞遊走能の増強が認められ、少量のIL-3で増強した。また、初発時と再発時の患者検体でRNA-seqを行い遺伝子発現の変化を調べたところ、CCL1,CCL2,CCL5などのケモカインの他、IL2RA,IL9Rなどの発現が増加しており、T細胞あるいは単球系へコミットした遺伝子発現の変化が認められた。こうした結果から、細胞接着・遊走に関連したシグナルの解析を進める必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は細胞動態の解析においては期待された成果が得られたが、細胞内シグナル分子のリン酸化解析では当初予想した変化が見いだせなかった。そこで、細胞遊走に関与する分子の解析およびRNA-seqによる網羅的遺伝子発現の解析からETV6-LPXNおよびLPXNの機能を分析する方向へ研究を進めている。 細胞遊走シグナル分子の解析に関しては、SDF1-CXCR4に関連したシグナル分子の解析、および他のケモカインに対する反応性について細胞増殖と細胞遊走の点から解析を行うともにそのシグナルの解析を進める計画である。 リンパ球系細胞における解析:これまでは骨髄球系の細胞株を用いて研究を進めてきたが、リンパ球系の細胞における機能を解析するため、IL-3依存性B細胞株であるBaF3細胞にETV6-LPXNおよびLPXNを遺伝子導入し細胞増殖、細胞遊走、さらには遺伝子発現の変化からその機能を解析する計画である。 網羅的遺伝子解析:他の白血病症例や他の造血器悪性腫瘍においてRNA-seqによる遺伝子発現の解析を行う。RNA-seqのデータから発現増加の見られたCCL1,CCL2,CCL5などのケモカインや、IL2RA,IL9RなどのサイトカインレセプターがLPXNの発現と関連するかを解析する。RNA-seq解析は、遺伝子変異や融合遺伝子の同定にも有用でありLPXNの発現とその関連分子における遺伝子変異などの有無から、総合的にLPXN分子関連の遺伝子異常、シグナル異常についての解析をする。10例程度の解析を予定しているが余裕があれば症例数を増やしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体購入では小サイズのものを購入したこと、細胞培養で使う試薬、プラスチック器具等は他の研究費からの支出で一部まかなったことなどから、本年度の試薬購入費が予定に満たなかった。しかし、これらの結果生じた残金は、本年度に予定しているRNA-seq解析に用いる試薬のが高価であることを踏まえた上で、他の試薬購入とともに使用する計画を立てている。
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次年度使用額の使用計画 |
シグナル解析のための抗体、ケモカイン、細胞培養機器、その他試薬などを購入する費用、特にRNA-seq解析のための試薬は高額なものが多く全額使用する予定である。
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