研究実績の概要 |
ETV6-LPXN(EL)はNUP98-HOXA9を有する急性骨髄性白血病の再発時に付加的に生じた融合遺伝子で、白血病の悪化に関与する。LPXNはパキシリンファミリーに属し、インテグリンやサイトカインレセプターなどからのシグナルを細胞内に伝えるアダプター分子である。ELを遺伝子導入したマウスIL-3依存性白血病細胞株32Dは、サイトカイン非依存性の増殖は得られなかったが、G-CSFに対しより強い増殖が認められた。また、CXCL12に対して、より強い細胞遊走性が誘導された。これらの下流のシグナル分子の違いを解析するため、GCSF,CXCL12添加後、経時的に細胞タンパクを抽出し、リン酸化チロシン、リン酸化LPXN,ERK,PYK2,STATs,JAKs等についてリン酸化シグナルを調べたが明らかな違いは得られなかった。チロシン以外のリン酸化シグナルが関与する可能性が考えられた。 マウスB細胞性白血病細胞株Ba/F3、ヒト急性骨髄性白血病由来細胞株NKM-1、 ヒト赤白血病由来サイトカイン依存性細胞株TF-1にELを遺伝子導入しCXCL12に対する過剰反応性を調べたところ、いずれの細胞においてもコントロール細胞に比べ、より強い細胞遊走性が認められた。 ELによる遺伝子発現の変化を網羅的に調べるため、初診時と再発時の患者検体によりRNA-seq解析を行い遺伝子発現の変化を解析した。発現の増加した遺伝子として、ケモカイン(CCL2,CCL5,CCL22,CCL1,CXCR)、抗アポトーシス分子(PIM-1,MYC)白血球走化性因子(IL-8)などが認められた。CXCR4の発現は1.4倍に増加していた。発現の減少した遺伝子としては、腫瘍抑制遺伝子(TP53,PTEN)、顆粒球分化関連分子(MPO,CD36,MMP8)などが認められた。抗アポトーシス遺伝子の減少と腫瘍抑制遺伝子の増加は、白血病の進行と密接に関わっていると考えられる。また、ケモカイン遺伝子の発現増加は、EL融合遺伝子との関連性が疑われた。さらに、再発時に新たに生じた遺伝子変異について解析を進めている。
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