申請者らは、クラスリン被覆小胞を介した物質輸送に関与する分子CALMの造血細胞における機能解析を行ってきた。その中で、変異サイトカイン受容体(RTK)を導入した白血病細胞株においてCALMの発現や機能を抑制した場合、腫瘍形成能が強く阻害される結果を得た。本研究は、この機序を詳細に解析し、変異RTKの細胞内輸送を操作することによる抗腫瘍効果を検討することで、難治性の白血病に対する新たな分子標的療法の基盤を確立することを目的としている。昨年度までに、クラスリン被覆小胞の形成を阻害するchlorpromazine(CPZ)が、Flt3ITDやc-KIT V816F変異を有する白血病細胞特異的に、細胞増殖を著明に抑制し、G1期での細胞周期停止、細胞死を誘導することを見出した。 本年度は、引き続きin vivoにおけるCPZの抗白血病効果について検討を行った。患者骨髄より単離した変異RTK(+)あるいは変異RTK(-)の白血病細胞をNOGマウスに移植し、白血病発症を確認後、CPZを有効血中濃度範囲内で8-10週間腹腔内投与した。変異RTK(+)白血病細胞を移植したマウスではCPZ投与により、白血病細胞の著明な減少を認め、生存期間の有意な延長を認めた。また、一部変異RTK(-)細胞を移植したマウスでも、白血病細胞の減少を認めた。生食を投与したコントロール群の白血病細胞では、変異RTKは膜表面以外の細胞内小器官に局在し、異所性に下流へのシグナルを伝達していた。一方、CPZ投与群の白血病細胞では、変異RTKは細胞質に散在し、シグナル伝達が著明に抑制されていた。以上の結果より、CPZ 等により変異RTK の細胞内局在を操作することで、既存のTKI と異なる新たな機序で変異RTK の活性を制御できる可能性が示唆された。
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