研究課題
成人T細胞白血病はHTLV―1の末梢T細胞への感染によって引き起こされる腫瘍性疾患である。様々な病型がある が、ATLの70%に高カルシウム血症が認められている。これはATL細胞が分泌するPTHrPの作用によって引き起こさ れると考えられてきたが、我々はATLモデルマウスを用い、高カルシウム状態が継続していることを突き止め、ATL癌幹細胞の定着・増殖・ニッチ形成に破骨細胞が重要な機能を有している事を明らかにし、破骨細胞阻害剤を用いる事で、骨髄におけるATL浸潤と骨病変を抑制する事に成功した。そこで、破骨細胞の役割をより詳細に検討にする目的で、ATL癌幹細胞の定着・増殖過程においてどのようなメカニズムで破骨細胞が誘導されるのか、FACS及びイメージングを用いて解析した。また、破骨細胞阻害剤の作用機序についても詳細に解明し、ヒトへの応用を目指す事を目的とした。平成27年度は破骨細胞阻害剤の投与によって破骨細胞数が減少し、その結果、骨量の低下などの骨病変が改善され、ATL癌幹細胞及びATL細胞の浸潤・増殖を抑制することが確認された。破骨細胞阻害剤を投与前、 投与中、投与後の3時期に分けて、ATL細胞及びATL癌幹細胞の割合を検討したところ、骨髄においてはATL細胞及び癌幹細胞の割合が有意に減少したにもかかわらず、脾臓や肝臓では著名な減少は誘導できなかった。そこで、薬剤投与によって細胞数が増減した集団の細胞を分取し、遺伝子発現変化をDNAマイクロアレイ方によって解析し、 薬剤投与によって変化する遺伝子群を同定した。これらの遺伝子に関しては機能解析を引き続き行っている。またATLヒト化マウスでも同様の薬剤効果が得られるか検討するために、ヒト化マウスのATLモデルの構築を行った。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に予定していた破骨細胞阻害剤の投与による影響を検討し、骨病変の改善やATL 細胞の浸潤を抑制を再現でき、また、骨髄においてはATL癌幹細胞及びATL細胞の割合が投与後に有意に減少していたことを明らかにした。しかし、予想に反し、脾臓や肝臓では著名な減少は誘導できなかったことから、本製剤のターゲットはあくまでも骨髄のみで有効である可能性が示唆された。当初、ATL癌幹細胞の分布、増殖カイネティクスの検討から、ATLは骨髄・脾臓を起点とし、各臓器へ再分布・浸潤する過程が認められていたが、それぞれの組織への浸潤は独立して行われている可能性、あるいは骨髄が抑制されても別の経路によって補填されることが示唆されるとともに、それぞれの組織に特徴的なニッチ細胞標的・分子基盤が存在していることが示唆された。また、薬剤投与によって細胞数が増減した集団の細胞を分取し、遺伝子発現変化を解析し、 薬剤投与によって変化する遺伝子群及び分子ネットワークを同定した。これらについては膨大な遺伝子があり、機能解析を行っている最中であり、この中から、新規の分子標的が生まれることを期待してる。またATLヒト化マウスでも同様の薬剤効果が得られるか検討するために、ヒト化マウスのATLモデルの構築を行った。
今後は、薬剤投与によって変化する遺伝子群の中から、有効な分子ネットワーク・パスウェイを導き出し、ATL細胞において有効な分子標的を探索するとともに、骨髄のみならず、脾臓や肝臓などのATL細胞にも有効な細胞標的としてのニッチ細胞の探索を引き続き行い、組織特異的な腫瘍細胞の退縮を目指したATL癌幹細胞の機能解析を行う。また共通の分子基盤をもとに、新たな分子標的を探索し、ATLにユニバーサルな治療薬開発の基盤を構築する。そのためには、種々のモデルマウスを用いた比較検討、ヒト化マウスを用いたよりヒトのATL病態に近いモデルでの検証が必要となってくる。
補助事業の目的をより精緻に達成するために、必要な実験を追加実施していたところ、論文の投稿が遅れ、年度内に、投稿後の追加実験等を実施することができなくなったため。
論文の投稿料とリバイスに関し必要となった追加実験に伴う消耗品。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
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