研究課題
基盤研究(C)
申請者らは、エストロゲン刺激後の骨髄間質細胞において、Wntシグナルの調節分子soluble Frizzled-related protein (SFRP)が高発現することを見出した。さらに、SFRPが免疫系において中心的な働きをするリンパ球の分化・増殖を抑制することを、マウスの細胞を用いたin vitroの実験系で示した。本研究では、SFRP上昇が生理的なリンパ球造血に及ぼす影響を明らかにする目的で、過剰発現マウスを作製し解析を行った。Wntシグナルの変化を介して胎児の発生に影響を与える可能性があったため、生後数週目から循環血液中で高濃度になるように工夫したノックインマウスモデルを用いた。SFRP1とSFRP5の2種類の過剰発現マウスを作製して解析したところ、どちらのマウスも野生型と比較してBリンパ球が有意に減少していた。特にSFRP5過剰発現の方がSFRP1よりも顕著なBリンパ球減少と脾臓の縮小をきたした。SFRP5過剰発現マウスの脾臓では幼弱な形質のBリンパ球が減少していたため、骨髄でのBリンパ球の分化が障害されているのではないかと推測し解析を進めた。その結果、SFRP5過剰発現マウスの骨髄ではpro-B細胞以降のBリンパ球前駆細胞が著減している一方で、リンパ系共通幹細胞が有意に増加していることが分かった。このことから、SFRP5の過剰発現状態は、骨髄中のBリンパ球の分化過程において、リンパ系共通幹細胞からproB細胞への段階を障害していると考えられた。この現象の分子メカニズムを明らかにする目的で、SFRP5過剰発現マウスのリンパ系共通幹細胞の遺伝子発現の特徴を、野生型マウスのリンパ系共通幹細胞と比較検討した。その結果、SFRP5過剰発現マウスのリンパ系共通幹細胞ではNotchシグナルが活性化していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書では、SFRP過剰発現マウスの精緻な解析を初年度の目標として掲げた。SFRP5過剰発現マウスの骨髄において、リンパ系共通幹細胞の分化が障害されていることが示され、初期分化過程に極めて特異的に作用していることが明らかとなった。さらにマイクロアレイを用いた発現遺伝子検索においても信頼できるデーターが得られ、分化障害の分子メカニズムとしてNotchシグナルの関与が示唆された。現在SFRP5ノックアウトマウスを用いた実験でその裏付けをとる検討を行っている。以上の状況を総合すると,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
SFRP5ノックアウトマウスを用いた検討を進め、Notchシグナルの活性化がSFRP5過剰発現によるBリンパ球抑制に関与していることを明らかにする。さらにNotchシグナルの抑制実験を行い、異なる角度からの証明を目指す。SFRPは従来Wntの阻害分子とされてきたが、我々の実験結果はリンパ球初期分化において、SFRPがWntシグナルとは無関係に作用するメカニズムを示唆している。最近、神経細胞や心筋細胞の実験系で、SFRPが細胞への直接作用を有することが示されている。免疫細胞におけるSFRPのシグナル受容体を同定することを目標に検討を進めていく計画である。
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