研究課題
申請者らは、母体の胎児に対する免疫寛容の誘導メカニズムを明らかにすることを目標とし、女性ホルモンの骨髄間質細胞を介した作用に着目して解析を行った。その結果、エストロゲン刺激後の骨髄間質細胞において、Wntシグナルの調節分子soluble Frizzled-related protein (SFRP)が高発現することを見出した。そこで本研究では、SFRP過剰発現マウスを作製し解析を行った。SFRP1とSFRP5の2種類の過剰発現マウスを作製して解析したところ、どちらのマウスも野生型と比較してBリンパ球が有意に減少したが、特にSFRP5過剰発現の方がSFRP1よりも顕著なBリンパ球減少と脾臓の縮小をきたした。この現象の分子メカニズムを明らかにする目的で、SFRP5過剰発現マウスの骨髄からリンパ系共通幹細胞を高純度で分離し、それらの遺伝子発現の特徴を野生型マウスと比較検討した。その結果、SFRP5過剰発現マウスのリンパ系共通幹細胞ではNotchシグナルが活性化していることが分かった。さらにその知見の裏付けを得るため、SFRP5ノックアウトマウスを用いた検討を行った。興味深いことにSFRP5ノックアウトマウスの骨髄中に含まれる造血幹細胞やリンパ系共通幹細胞は、エストロゲンに対する感受性が野生型よりも高かった。また、エストロゲン刺激後の遺伝子発現を検討した結果、Notchシグナルの下流に存在する遺伝子の発現に変化が認められた。しかし、SFRP5ノックアウトマウスを妊娠させて骨髄での造血機能を評価した結果では、野生型の妊娠マウスと比較して優位な変化を認めなかった。その原因として、妊娠期のSFRP5ノックアウトマウスの骨髄における他のSFRPファミリーの変化を調べたところ、SFRP1-4のすべてにおいて発現の上昇が認められた。このことからSFRP5ノックアウトマウスでは、他のSFRP分子による代替機能が働いていると考えられた。
すべて 2015
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Exp Hematol.
巻: 43 ページ: 374-381
10.1016/j.exphem.2015.01.002.