奈良医大輸血部は、1998年より日本全国からの医療機関からの依頼によりADAMTS13検査を血栓性微小血管症(TMA)疑い患者で行っている。その結果、TMAと診断された症例が2015年末で1369例となった。このうち造血幹細胞移植後にTMA(移植後TMA)を発症した症例は89 例であった。TMAの中で最も有名な血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の指定難病としての診断基準では、ADAMTS13活性が10%未満とされている。移植後TMAの中にもADAMTS13活性が10%未満の症例が4例あったが、移植後TMAの病因としてADAMTS13活性著減がどのように関与しているかが問題である。ただし、移植後TMAの病因として、ADAMTS13ではなく血管内皮細胞障害が重要とされており、それを判定する方法が重要である。 血管内皮細胞障害のマーカーとして、トロンボモジュリンとvon Willebrand因子(VWF)が有名であるが、移植後TMA症例ではいずれも増加しており、指標とはならない。そのため、VWFの質的な解析を行うため、VWFマルチマー解析を行い、TMA発症前に超高分子量VWFマルチマー(Ul-VWFM)が出現し、発症時には高分子量マルチマーが欠損する症例が多いことを確認した。さらに血管内皮細胞障害を特異的に簡便に測定するため、流血中に存在する血管内皮細胞(CEC)をフローサイトメトリー法で測定する方法を確立した。この方法を用いれば、全血2mLで平常時でも10個以上の血管内皮細胞を検出することが可能であり、TMAやVODなど血管内皮細胞障害によるとされている種々の病態での検討を行っている。 移植後TMAの発症予防として新鮮凍結血漿(FFP)の定期輸注が有用であることを確認しているが、発症後の治療法として有用性が明らかな方法は認めなかった。
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