研究課題/領域番号 |
25461459
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
翁 家国 自治医科大学, 医学部, 講師 (20398514)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子改変T細胞 / CRISPR/Cas9 / RGEN / GVHD |
研究実績の概要 |
同種T細胞を遺伝子改変しGVHDを減弱させる方法として、CRISPR/Cas9システムを利用したRNA誘導型ヌクレアーゼ(RGEN:RNA-Guided Endnuclease)を用いた。マウスT細胞のTCR-β鎖をノックアウトした後、骨髄移植モデルに投与しGVHDが減弱すると仮説する。RGEN作成にあたって、どの標的配列が最適かin vitroで検討した。TCRβの塩基配列から候補となるPAM配列を選択し、その5’側の20塩基を(82-102)(116-136)(142-162)に設定した。T7 promoter配列―sgRNAの標的配列―tracRNAの塩基配列を付加したDNAテンプレートをPCRで作成。このテンプレートをもとにT7 polymeraseを用いてsgRNAを作成した。sgRNAの切断効率をスクリーニングするため、EL4(マウスT細胞リンパ腫)とマウス初代培養CD4からgDNAを抽出しsgRNAの標的配列の上流と下流にプライマーを設計した。約2kbのフラグメントDNAをPCRで増幅した。作成した3種類のsgRNAとCD4、およびEL4に由来する2kbのDNAフラグメント、さらにCas9 nucleaseをin vitroで反応しDNAの切断効率を比較した。その結果、2種のDNAフラグメントの双方において、sgRNA(142-146)>(82-102)>(116-136)の順に切断効率が良い結果を得た。そこでTCRβ(142-162)部分を標的とするsgRNA発現ベクター(pRGEN-U6-sgRNA)を作成した。またCas9タンパクを発現するpRGEN-Cas9-CMV発現ベクターを作成した。RGENのin vivoでの効果を確認するためマウス初代培養CD4とEL4にエレクトロポレーションを用いて遺伝子導入実験をおこなった。Nucleofection後48時間の解析でどちらの細胞もコントロール遺伝子(eGFP)の導入効率は40-60%程度であった。この条件下で目的とするRGEN発現ベクターを遺伝子導入してもTCRβの低下した細胞は3.3%と僅かであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
In vitroの実験系でTCRβのノックアウトに最適なPAM配列を選択した。そこを標的とするsgRNA発現ベクタープラスミド、およびCMVプロモーター下にCas9タンパクを発現するベクタープラスミドを作成した。マウスT細胞リンパ腫細胞株EL4でそれらの遺伝子ノックアウトの効果を確認し、つづいてマウス初代培養CD90陽性細胞でも同様の効果を確認。最後に遺伝子改変T細胞をクローン化しマウス個体への投与実験でその最終的な効果を観察する予定であった。骨髄移植モデルマウスにWTのCD90陽性T細胞を投与すると強いGVHD反応が観察されるが、遺伝子を改変したT細胞は(TCRβノックアウト)では減弱すると予想される。ノックアウトの候補とした3箇所の塩基配列はin vitroの実験系ではどれも有効であった。そこからsgRNA発現ベクターを作成したが細胞レベルでの効果が観察できなかった。原因として以下の3点を考察した。ヌクレオフェクションの効率がコントロール(eGFP)と同等と仮定すれば①sgRNAは発現し細胞レベルで目的とする塩基配列は切断したもののタンパクとしてTCRを発現するのには重要でない配列であった可能性がある。別の配列を標的とするsgRNA発現ベクターを作成する必要がある。②sgRNAは発現したもののCas9が発現しなかった可能性がある。今回Cas9発現ベクターのプロモータ配列はCMVを選択したがマウスの実験系ではEF1αの方が有効である可能性がある。pRGEN-Cas9-EF1αを作成する予定である。③ヌクレオフェクション自体が成功していない可能性がある。コントロール遺伝子(eGFP)の導入効率は40-60%と安定していたが目的とするpRGENの遺伝子導入そのものが成功していないとすれば他の遺伝子導入法(リポフェクション他)を試してみる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR/Cas9システムを利用したRNA誘導型ヌクレアーゼ(RGEN:RNA-Guided Endnuclease)を用いてマウスT細胞の遺伝子改変を成功させたい。In vivoでTCRのノックアウトを成功させマウス個体での効果を観察したい。これまでのところ標的配列を決定しその標的配列に結合するsgRNA発現ベクターを作成した。しかし何らかの原因により細胞レベルでの遺伝子ノックアウトが成功しない。エレクトロポレーションによる遺伝子導入そのものが成功していないとすれば、遺伝子導入法を変更する必要がある。リン酸カルシウム法やリポフェクチョン法、生物分解性ナノ粒子を利用する方法を計画している(Fugene 6 transfection試薬、Transit 293試薬、Xfect試薬など)。現在のプラスミドベクターではマーカー遺伝子が搭載されていないため、遺伝子導入そのものの効率が不明である(コントロールのベクターの導入効率から推測するしかない)。EGFPなどのマーカー遺伝子を組み込んだ新たなベクターをサブクローニングすると、遺伝子の導入効率が明らかになる。sgRNA発現ベクターが有効に発現しているもののエンドヌクレアーゼをコードするベクター(pRGEN-Cas9-CMV)が有効に発現していない可能性もある。EF1αプロモーターは一過性発現においてCMVプロモーターに比べ発現が弱いと言われているが、細胞腫によってはCMVプロモーター下で安定発現株が得られない場合でもEF1αプロモーターを用いると有効な場合があるので新たにpRGEN-Cas9-EF1αを作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
既に購入した試薬(FACS抗体、細胞分離用マイクロビーズ、培地、その他)や物品が研究室に多数在庫されている。本年度は新たな物品購入をすることなく実験の遂行が可能であった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題に関する学会発表や新たな研究試薬、実験動物を購入に使用する計画である。
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