研究課題
1)昨年度までに,ボトロセチン2のβ鎖に関してVWFとの結合及びGPIbとの相互作用に重要なアミノ酸残基を同定した。また,逆荷電にした2箇所のアミノ酸変異を導入することで,VWFに結合するが血小板GPIbとの結合活性を持たない変異体の作製に成功した。さらに,この変異体はリストセチンによる血小板凝集惹起(RIPA)を阻害することを明らかにした。本年度は,この変異体がずり応力惹起血小板凝集(SIPA)に及ぼす影響を奈良医大輸血部(松本教授)との共同研究により行った。その結果,VWFとの結合に重要なアミノ酸であるβ鎖のAsp70をAlaに置換した変異体はVWFとの結合をELISA系では示さず,血小板凝集惹起活性も弱かったが,SIPAでは血小板凝集を促進させた。また,GPIbとの結合が低下する1アミノ酸置換の変異体はSIPAを阻害せず,促進的に作用した。これに対し,逆荷電にした2箇所のアミノ酸置換変異体はRIPA阻害と同様に,SIPA凝集を阻害した。すなわち,VWFに結合する活性はそのままに血小板との相互作用を持たず,逆に血小板の相互作用を抑制する新規のタンパク質であることが示された。2)さらに,ボトロセチン2とVWFとの複合体の立体構造モデルから,両者の接触点をサーベイし,先の2箇所の荷電アミノ酸に加えていくつかの候補荷電アミノ酸残基を選定し,これも逆荷電アミノ酸に置換することでより強い血小板凝集阻害効果を狙って発現を行った。3種類の発現体はいずれもRIPAを阻害した。組換えタンパク質の発現量が少ないため,SIPAへの影響を調べたり,定量的な比較はできていない。3)2014年度は,第9回日本臨床検査学教育学会(東京),第61回トキシン・シンポジウム(徳島)でこれまでの成果について口演発表した。
4: 遅れている
当初考えていた以上に変異導入がうまく行かず,形質転換体がとれなかったため変異体cDNAがなかなか得られなかった。その原因として,変異導入に用いるPCR用プライマーの設計や温度プログラムが影響するものと思われた。プライマーの再設計やプログラムの試行錯誤を経て,変異体cDNAの調製に成功できた。しかし,cDNAを得たものの,アミノ酸変異によってはヘテロダイマーとしての発現量が少なく,十分なタンパク質が得られなかった。電荷を逆にした複数箇所の変異導入がボトロセチン2の立体構造に微妙な影響を及ぼし,ダイマー形成を妨げた可能性が考えられた。その他,マンパワーが不足しており,実験する時間が少なかったことも原因である。
1)これまでの成果を国際血栓止血学会で発表するほか,論文として投稿する。2)塩基性アミノ酸を酸性アミノ酸に置換する際にこれまで,グルタミン酸への置換を行ってきたが,アスパラギン酸への置換の影響を調べる。3)AKTA pure装置が設置される予定であり,粗毒からのタンパク質の精製を再開する。標準物質としてのボトロセチンやビチセチンの精製のほか,VWFをターゲットとした新規結合タンパク質のスクリーニングをめざす。4)これまでのin vitro 系の実験に加え,モデルマウス等を用いてのin vivo系の実験を模索し,変異導入ボトロセチンの抗血栓性を検証したい。5)講義等の時間が多く,まとまった研究時間を作ることが難しいが,夏休み等の時間を利用して全力を注ぐ。
前年度までの試薬の買い置きが間に合い,高価な試薬を節約できた。また,遺伝子改変の導入が遅れ,関連して遺伝子導入や細胞培養等に必要な試薬類の調達が少なかった。
物品購入に関しては,順次,細胞培養用試薬,遺伝子導入用試薬,抗体などの試薬購入に使用する。現在使用しているノート型パソコンが旧型で動作が遅く,重くて不便なことから,新規購入を予定している。また,デスクトップパソコンにおいても旧型となっており,購入を考える。旅費として,2015年6月にカナダで開催される国際学会への出席と発表を行う経費を申請する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
血液フロンティア
巻: 24 ページ: 45-54
Immunogenetics
巻: 66 ページ: 93-103
10.1007/s00251-013-0747-0
Molecules
巻: 5 ページ: 13990-14003
10.3390