研究課題
基盤研究(C)
東海村臨界放射線事故に際しては、放射線性骨髄障害の治療目的で血縁からの同種末梢血幹細胞移植が行われたが、本来正常であったドナー細胞には生着後に新たな染色体異常が認められた。一方、造血幹細胞移植後には、ドナー細胞に由来する白血病の発症が報告されているが、その発症頻度は0.1%から高いものでは5%にまで昇っている。おそらく同種免疫反応の加わる移植後の骨髄環境は、通常の化学療法とは区別されるべき特殊な環境であり、何らかの要因により高率に遺伝子変異を誘導し得る可能性があると考えられる。これは移植医療において看過できない問題であるが、これまでは方法論が十分に確立されていなかったため十分な研究はなされていない。そこで、われわれは移植前後のドナー由来の細胞の遺伝子に注目し、(1)エキソーム・シークエンスによる遺伝子塩基変異の解析、(2)新規開発システムであるゲノム構造解析法によるゲノム構造変化の検出、さらに(3)DNAメチル化解析による遺伝子修飾の比較、を行う。注意すべき点としては、移植後の造血細胞は、様々な割合でドナー/レシピエントのキメラになっており、ドナー由来細胞のみを正確に選別することは困難なことである。そこで、われわれは妊娠歴のない女性への男性からの移植症例を対象とし、Y染色体を指標としてドナー由来細胞を評価することとした。これら包括的な遺伝子解析により、造血幹細胞移植に潜在する、ドナー由来白血病を含む白血病再発の発症基盤の分子生物学的機構を解明する。
2: おおむね順調に進展している
造血幹細胞移植に潜在するドナー由来白血病を含む白血病再発の発症基盤の分子生物学的機構を解明するため、移植前後のドナー細胞におけるゲノム変異(主に遺伝子塩基変異)の解析を開始した。移植後の造血細胞は、様々な割合でドナー/レシピエントのキメラになっており、ドナー由来細胞のみを正確に選別することは困難である。そこで、妊娠歴のない女性への男性からの移植症例を対象とし、コロニーアッセイでY染色体陽性が得られたコロニー細胞のみをドナー由来と評価し解析に使用することとした。さらに、移植後環境として通常化学療法と異なる特徴のひとつが同種免疫反応であるため、症例の選択においては、GVHD合併症例に焦点を合わせて症例を選択している。まず造血幹細胞・前駆細胞のコロニーからのエキソーム解析の実験系を確立した。ドナー由来の移植細胞をメチルセルロース培地で培養し、造血幹細胞・前駆細胞からのコロニーを形成し、各コロニーをパスツールピペットで採取した。DNAを抽出後にphi29ポリメラーゼで全ゲノムを均等に増幅した。exon領域をSureSelect Human All Exon V5 (Agilent)により濃縮し、Hiseq1500 (illumine)で遺伝子解析を行い、コロニーからのexome解析の条件設定を行った。同時に、ゲノム構造変化を高精度・高感度に検出するためにメイトペア法を応用した新規システムの開発を行い、その最適化を行った。本システムについてはアダプターの問題から一部にノイズが検出されており、さらなる条件設定が必要である。
本研究のための実験法の条件設定および検体保存は適切に進行しており、本年度は造血幹細胞移植前後における造血幹細胞・前駆細胞のコロニーからのexome解析を開始する。さらに遺伝子構造異常の出現の有無について移植後の有核細胞を対象に新規システムによる解析を行う。移植症例については、grade II以上の急性GVHDを発症した症例から検討を始める。一方、慢性炎症ストレスが遺伝子メチル化を含むepigenetic変化につながることが注目されており、本研究課題においてもGVHDに基づく慢性炎症が造血幹細胞に影響を与えている可能性があり、移植前後の造血幹細胞におけるメチル化変化の解析が必要である。そのため本年度は、少量細胞におけるメチル化解析についての条件設定を開始する。また、本課題について介入研究を行うためには動物実験が必要であり、放射線照射に基づくGVHD発症のマウス移植系を作成し、同じくGVHDストレス化での造血幹細胞のゲノムへの影響を動物モデルで検討していく。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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