研究課題/領域番号 |
25461465
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
坂野 史明 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (00373514)
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研究分担者 |
秋山 正志 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (30298179)
宮田 敏行 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (90183970)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロテインS / プラスミノーゲン / ノックインマウス / 遺伝子変異 / 日本人の血栓症 |
研究実績の概要 |
日本人には凝固制御因子プロテインS(PS)のK196E変異が約55人に1人の頻度で存在し、静脈血栓症の遺伝素因となっている。また、線溶因子プラスミノーゲン(Plg)のA620T変異(マウスではA622T変異)も日本人の約25人に1人の頻度で認められ、潜在的な血栓性リスクとなっている可能性がある。本研究では、これらの変異をもつ遺伝子改変マウスを用いて日本人の血栓症の特徴を明確化し、本邦の血栓症予防、治療の充実に向けた基盤を構築することを目的としている。 前年度の検討から、Plg-A622Tマウスでは血漿Plg活性および抗原量が共に低下することがわかった。しかし、本変異マウスには静脈血栓症状の悪化は見られなかった。そこで本年度は、Plg-A622T変異のPlg産生および血栓溶解能への影響を更に詳しく解析した。Plgの主要産生組織である肝臓からRNAを抽出し、定量RT-PCR解析を行った結果、Plg-A622TマウスのPlg mRNA発現量は野生型マウスに比べてむしろ微増していることがわかった。血漿のウエスタンブロット解析により、Plg-A622T蛋白質は野生型Plgと同じ分子量をもち、プラスミンへの変換にも異常は見られないことが明らかになった。血漿のフィブリン塊溶解活性を確認した結果、Plg-A622Tマウスでは野生型マウスに比べて血栓溶解活性が顕著に低下することが判明した。以上の結果から、Plg-A622T変異ではPlgの翻訳または分泌の異常とプラスミン活性低下が引き起こるため、線溶活性低下状態が持続すると考えられた。そこで、この活性低下が組織線溶および組織修復に影響をもたらすかどうか調べるため、Plg-A622Tマウスに皮膚欠損創を作製し、その治癒過程を追跡した結果、Plg-A622Tマウスの皮膚創は野生型マウス同様に12~14日でほぼ完全に修復することがわかった。したがって、Plg-A622T変異による線溶活性低下は単独では血栓症や組織修復に有意な影響は与えないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの検討から、PS-K196E変異マウスが静脈系血栓症に脆弱性を示すことが明らかになった。一方、Plg-A622T変異マウスには明らかな血栓傾向が認められなかったたため、研究実施計画を一部変更し、新たな追加検討としてPlg-A622T変異マウスの線溶能の精査と組織繊溶への影響を解析した。この結果、Plg-A622T変異はフィブリン溶解活性の低下をもたらすが、少なくとも本変異単独では、血栓症や組織修復の異常にはつながらないことを明らかにできた。実施計画は一部変更したが、新たに追加した検討から有意義な知見が得られており、研究計画全体はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに樹立したPS-K196E変異とPlg-A622T変異のダブル変異マウスを用いて、Plg-A622T変異がPS-K196E変異による血栓傾向を修飾するか否か明らかにする。 新たな静脈血栓症治療薬の候補分子について、その有効性を野生型マウスおよび変異マウスを用いた静脈血栓症モデル実験により検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、当初予定していなかった定量RT-PCR実験等を行ったため、使用額が支払請求額をオーバーしたが、前年度繰越金で賄うことができた。繰越金がまだ残っているため、次年度請求額と合わせて研究を進める。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金は次年度の消耗品費に充てる。
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