研究課題
基盤研究(C)
Janus kinase (Jak)は各種サイトカインがその生物学的活性を発揮する際に必須のチロシンキナーゼであり、その阻害薬であるtofacitinibは近年関節リウマチの新規治療薬として注目されてきている。研究協力を得ている東京大学アレルギーリウマチ内科第18研究室では、抑制性サイトカインIL-10を高産生するCD4陽性CD25陰性LAG3陽性 制御性T細胞(以下、LAG3 Treg)を同定している。転写因子Egr2の強制発現はナイーブT細胞にLAG3 Tregの表現型を付与することより、Egr2はLAG3 Tregによる抑制能におけるmaster regulator geneであると考えられている。研究代表者はtofacitinibがEgr2高発現T細胞を誘導するという知見を既に得ており、本課題ではJak阻害剤等により誘導されるT細胞の機能解析とその誘導機序解明を通して、新規免疫抑制療法の開発を目指す。平成25年度は、TofacitinibによるLAG3 Treg様細胞誘導条件を確立するため以下の検討を行った。C57BL/6マウスより回収したCD4陽性CD62L陽性 ナイーブT細胞を、T細胞受容体刺激下に各種濃度のtofacitinibを添加して培養を行ったところ、Egr2を最も効果的に誘導する条件は低濃度条件であるという知見を得た。ヒトの関節リウマチのモデルとしてII型コラーゲン誘発関節炎(CIA)が知られているが、DBA1/JマウスはCIA高感受性である。そこで、DBA1/Jマウスより回収したCD4陽性CD62L陽性 ナイーブT細胞でも上述と同様の検討を行い、tofacitinibの至適濃度を決定した。以上の検討により、各種実験モデルマウスにおけるtofacitinibによるLAG3 Treg様細胞の誘導条件を確立した。これらの結果は、tofacitinibによる抑制性T細胞誘導条件を明らかにしただけでなく、翌年度以降の各種ノックアウトマウスを用いたin vivo実験の重要な足掛かりとなる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は東京大学医学部附属病院アレルギーリウマチ内科第18研究室の協力を得て、Jak阻害剤により誘導されるLAG3 Treg様細胞の機能解析を行うにあたり、tofacitinibによる至適な誘導条件を確立した。上述の検討以外に、各種STAT欠損マウス(STAT1, STAT3, STAT4, STAT5, STAT6)に関しては、実験施行に十分な匹数が得られるべくマウスの交配を行った。また、同研究室で作製したEgr2プロモーター下にGFPを発現するC57BL/6.Egr2-GFPマウスに、T細胞特異的Egr2コンディショナルノックアウト(CKO)マウス(Egr2fl/fl CD4-Cre+)を交配し、Egr2 reporter 'null' alleleであるEgr2-GFP Egr2 CKOマウスを作製した。これら遺伝子改変マウスから回収したtofacitinibを添加することで、より正確にEgr2発現を検討することが可能となった。ヒト疾患におけるtofacitinibによるLAG3 Tregの変化に関する検討の基礎データとして、健常コントロールと比較した関節リウマチ患者、SLE患者の末梢血LAG3 Treg存在率をフローサイトメトリーを用いて現在検討中である。以上のことより計画は概ね順調に進展していると考える。
研究協力を得ている東京大学医学部附属病院アレルギーリウマチ内科第18研究室の岩崎らは、IL-27存在下でナイーブT細胞を刺激することでEgr2発現が誘導されることを報告している(Eur J Immunol. 2013;43:1063-73)。申請者は上述の検討結果以外に、tofacitinibおよび、IL-27によるLAG3 Treg様細胞の誘導につき比較検討を行うことで、tofacitinib単独に比してIL-27を添加することでより効率的にEgr2が誘導されるという知見を得ている。今後はJak阻害剤以外とのコンビネーションも含め、最も効率的なLAG3 Treg様細胞誘導条件を検討し、各種疾患モデルマウスを使用した治療実験を展開する予定である。既存の実験計画に加え、本年度から当研究室ではSLEの皮疹・関節炎などの症状に対し、ハイドロキシクロロキン(HCQ)の有効性に関するオープンラベル試験を行う予定である。HCQは全世界70カ国以上で皮膚エリテマトーデス(DLE)、SLE、関節リウマチの治療薬として承認されており、安価な薬剤である。日本ではSLE・DLEにつき現在第III相試験が行われている。最近、tofacitinibはヒト樹状細胞において、I型IFN産生、IRF7・共刺激分子発現を抑制することが報告されている。HCQもDNAやRNAを認識するTLR7や9の活性化抑制を介し、IFN産生を抑制している可能性がある。HCQについてもLAG3 Tregを誘導する可能性がないか検討する。
tofacitinib販売承認後に、内服前後の関節リウマチ患者でLAG3+Treg数やその抑制能、エフェクターT細胞のEgr2発現につき検討する予定であったが、該当例がおらず、健常人とRA, SLE患者の比較による基礎的検討にとどまったため。既存の実験計画に加え、本年度から当研究室ではSLEの皮疹・関節炎などの症状に対し、ハイドロキシクロロキン(HCQ)の有効性に関するオープンラベル試験を行う予定である。HCQは全世界70カ国以上で皮膚エリテマトーデス(DLE)、SLE、関節リウマチの治療薬として承認されており、安価な薬剤である。日本ではSLE・DLEにつき現在第III相試験が行われている。最近、tofacitinibはヒト樹状細胞において、I型IFN産生、IRF7・共刺激分子発現を抑制することが報告されている。HCQもDNAやRNAを認識するTLR7や9の活性化抑制を介し、IFN産生を抑制している可能性がある。HCQについてもLAG3 Tregを誘導する可能性がないか検討する。
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Journal of immunology
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10.4049/jimmunol.1202106.
Rheumatology(Oxford)
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