研究実績の概要 |
全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus, SLE)患者の精神神経症状(Neuropsychiatric SLE, NPSLE)は重篤な臓器障害のひと つであり、その髄液(Cerebrospinal fluid, CSF)中では様々な自己抗体や液性因子が認められ、NPSLEの病態に関係する。 精神症状を伴うNPSLE患者のCSF中において、抗 N-methyl-D-aspartate receptor subunit 2(NR2)抗体などの抗神経抗体が検出されること、CSF中抗NR2抗体 は血液脳関門(Blood Brain Barrier, BBB)の透過性と相関することが報告されている。一方で我々は、CSF中の 抗U1RNP抗体がNPSLEにおいて臨床的意義を有することを報告した。 中枢神経症状を有するNPSLE患者CSF中の抗NR2および抗U1RNP抗体、またIL-6などのCSF中液性因子を測定し、何らかの相加効果があるかどうかを検討した。その結果以下の結論を得た。 1)CSF中IL-8はBBBの透過性のみに依存すると考えられた。またこれらとBBBの透過性亢進との相関を検討した。 CSF-DP群では、CSF中IL-6およびMIGが他の群よりも有意に高かった。2) CSF-DP群とaNR2群との間でQalbに差は認めなかったことから、抗U1RNP抗体が、BBBの透過性をさらに亢進させることなく、抗NR2抗体に対して、CSF中IL-6やMIGを上昇させるような相加的作用を与えていると示唆された。3)CSF中IL-6は抗NR2抗体価と相関し、またBBBの透過性亢進にも影響を受けると考えられた。4)CSF中MIGはBBBの透過性に関係する一方、抗U1RNP抗体の影響も受ける可能性が示唆された。5)CSF中IL-8はBBBの透過性のみに依存すると考えられた。6)CSF中の自己抗体は、特異的症状との相関を認めなかった。 この中で特に抗U1RNP抗体が直接的にCSF-IL-6を上昇させる効果が乏しいにもかかわらず、抗NR2抗体依存性のIL-6を上昇させた点は興味深い。近年、抗リボゾームP抗体が抗NR2抗体と相乗効果を示すなどの論文があるが、それらとの機序の異同の検討が必要である。
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