「マスト細胞の生物毒に対する生体防御機構の役割」についての解析の結果、①クモ毒の一部に対してはマスト細胞の生体防御の働きは示されず、また、②Kit遺伝子変異マウスは、マスト細胞非依存的にフグ毒に対する抵抗性・防御反応が低下している可能性が示唆された。次に、動物由来トキシンと相同性が高くこれまでマスト細胞による分解調節作用が明らかとなっている内因性生理活性物質であるエンドセリン-1(ET-1)やアンギオテンシン II(AT II)に着目し、これらが病態形成において重要とされる疾患である全身性強皮症を解析対象とした。 「強皮症病態形成におけるマスト細胞および生理活性物質の役割」を検討するため、当施設(九州大学病院)でフォロー中の全身性強皮症および膠原病患者の血液サンプルを用いてET-1、AT II、またマスト細胞の活性化マーカーであるヒスタミンの血中濃度測定をELISA法で行ったところ、いずれも強皮症患者において健常者や他の膠原病患者より高い傾向が認められた。血清ヒスタミン値については強皮症患者、とくに間質性肺炎合併例で高い傾向がみられ、血中ヒスタミン値と肺機能・間質性肺炎マーカーとの相関が認められた。また強皮症診断のため施行した皮膚生検サンプルを用いて、生検組織におけるマスト細胞の質的量的評価を行ったところ、強皮症皮膚組織でのマスト細胞の発現亢進・活性化が認められた。 さらに代表的な強皮症モデルであるブレオマイシン誘導強皮症モデルを用いて、野生型とマスト細胞欠損マウスとの比較を行ったところマスト細胞欠損マウスで強皮症病態がより軽微であった。以上より強皮症病態形成における種々の生理活性物質の調節を介したマスト細胞の関与が示唆された。
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