高親和性IgE受容体(FcεRI)を介したマスト細胞の活性化は,花粉症や気管支喘息などのI型アレルギーの発症につながります。そのため,マスト細胞の活性化をコントロールする技術開発の社会的,学術的意義はきわめて大きいものであります。本研究の目的はFcεRIがαβおよびγ鎖のホモダイマーから構成されることに着目し,SS結合によるγ鎖のホモダイマー化のFcεRIを介したマスト細胞活性化における重要性を明らかにし,I型アレルギー疾患に対する治療戦略の新展開を目指す点にあります。 平成28年度までの研究によって.1)SS結合によるγ鎖のホモダイマー化がFcεRIの安定性に重要であること,2) FcεRI の細胞膜への発現には必須ではないこと,3) FcεR架橋の強さに応じたマスト細胞の脱顆粒応答およびサイトカイン産生の正と負の制御機構に関与していることを突き止めました。すなわち,γ鎖のSS結合が形成できないマスト細胞では,低濃度の抗原刺激時に脱顆粒応答が減弱し,高濃度の抗原刺激時には脱顆粒応答が亢進します。 本年度は,主要なメディエーターの一つであるLTC4に着目し,γ鎖のSS結合とLTC4産生における正と負の調節機構について解析を行いました。FcεRIγ鎖のSS結合が形成されるマスト細胞と形成されないマスト細胞を調製し,低濃度および高濃度の抗原刺激後の培養上清中のLTC4量を測定しました。今回の解析の結果,低濃度の抗原刺激時にはLTC4産生量が減少し,脱顆粒やサイトカイン産生と同様にFcεRIγ鎖のSS結合が正の調節分子であることが明らかになりました。一方,高濃度の抗原刺劇時のLTC4産生量には違いは認められなったため,LTC4産生の負に調節には関与しないことが示されました。 以上の結果から,FcεRIγ鎖のSS結合は,マスト細胞活性化制御法の新たな分子標的となる可能性が示唆されました。
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