研究課題
基盤研究(C)
主に細菌やウイルスの感染時に機能する自然免疫因子を中心とした遺伝子の多型と、疾患発症の相関を解析した。その結果、統計学的に有意な相関を示す遺伝子多型をNucleotide oligomelization domain like receptors pyrin domain containing protein(NLRP)の、複数のアイソザイムにおいて同定した。この遺伝子は、サルコイドーシスの原因菌として同定されているPropionibacterium acnes(アクネ菌)の感染時に応答することが報告されているものだった。また、その遺伝子多型の中の1つは、野生型と比較して、リガンド刺激に対して過剰にIL-1βを産生する、機能亢進型の表現系を示した。さらに複数の遺伝子多型の中で、それぞれが関連する臨床上の所見として、1つは重症感染症の予後、アルツハイマー病、川崎病、クローン病と関連するタイプであった。またさらに他の1つは、骨髄移植の予後(生存率、移植片対宿主病の重症度)、アレルギー、アナフィラキシーショックと相関するものであった。このことから、疾患発症に至る病態機序の解明に関する情報が得られた。これまでに解析した疾患発症と関連する自然免疫因子であるNOD1の遺伝子多型は機能低下型であった。このため疾患発症機序として、細胞質に存在する自然免疫因子群における相互の複雑なネットワークの異常が想定できた。さらにこれらの成果を基に、同定した遺伝子多型を判別するDNAチップの開発を開始し、臨床診断への応用を検討している。現時点では、複数の遺伝子多型について、野生型と疾患型をほぼ完全に判別できる条件が得られている。インフラマソームは肥満や肝線維症や心筋梗塞や脳血管障害などの生活習慣病の発症との関連も報告されているため、それらの疾患に対する診断への応用に向けた発展が想定できる。
2: おおむね順調に進展している
疾患発症に関連する遺伝子を同定することができた。これは今後の診断法開発や治療法開発のターゲットとなり、研究の方向性を確立できた。同定した遺伝子であるNLRPアイソザイムは、これまでは欧米で免疫関連疾患との報告があるが、本邦ではほとんど報告の無い遺伝子だった。またサルコイドーシスの原因菌としてこれまで報告したアクネ菌に応答する遺伝子であるため、疾患発症に至る病態機序として、NLRPの異常により、アクネ菌の増殖を抑制できないことが発症につながることを明らかにした。さらに細胞質内局在型のNLRPとNOD1の複数の自然免疫関連因子の遺伝子多型や遺伝子変異が疾患発症に関連し、さらにNLRPは遺伝子の変化により機能亢進を示し、NOD1は機能低下を示したことなどの遺伝子異常に基づく機能変化の情報から、疾患発症に至る病態機序を想定することができた。また臨床応用として、遺伝子診断へ用いるDNAチップの作製を進めることができた。
肉芽腫形成疾患のさらに詳細な発症機序の分子レベルでの解明と、その成果に基づく診断法の開発、新規治療法の開発を進めていく。病態機序の解明では、疾患発症に関連する遺伝子として、これまでに同定したNLRPファミリーのアイソザイムに加えて、自然免疫関連因子とその活性制御因子の遺伝子解析を進める。さらに同定した遺伝子多型や遺伝子変異について、活性の変化等を指標とした機能解析を進める。同定した各因子の機能変化に基づいて、疾患発症機構を明らかにしていく。診断への応用に関しては、現在行っているDNAチップの作製をさらに進めていく。また治療法開発の理論的基盤の構築として、疾患発症に関連する因子の機能解析の情報に基づく相互作用の機構を明らかにする。さらにその相互作用を阻害する機構を明らかにし、疾患発症の予防に応用する。NLRP遺伝子の異常は肥満や肝線維症や心筋梗塞や脳血管障害などの生活習慣病の発症に関連することが報告されているため、それらの疾患の診断への応用の可能性も検討する。
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Hepatology Research
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10.1111/hepr.12213