研究課題/領域番号 |
25461511
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
田辺 剛 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80260678)
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研究分担者 |
山口 奈津 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40450671)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | サルコイドーシス / NOD1 / NLRP |
研究実績の概要 |
難治性肉芽腫形成疾患の代表的疾患であるサルコイドーシスの発症について、細胞質内に局在する自然免疫因子の遺伝子多型との関連を解析した。その結果、自然免疫因子で相関を示すものと示さないものを同定することができた。これまでサルコイドーシスの原因菌として、細胞内に寄生するタイプのアクネ菌を同定した。細胞質内の自然免疫因子NOD1は細胞内寄生タイプのアクネ菌の認識に関与しており、さらにNOD1の遺伝子多型はサルコイドーシスの発症に関連していることを明らかにした。アクネ菌に応答して炎症を誘導する過程において、免疫複合体インフラマソームが関与することが明らかになっている。インフラマソームの構成要素であるNod like receptor Pyrin (NLRP) について、その遺伝子多型とサルコイドーシス発症との関連を解析した。昨年度に同定した、日本人集団における自然免疫能に影響するNLRP遺伝子多型を含む、4種類の遺伝子多型を解析した。 rs11651270 (NLRP1)・rs1043673 (NLRP2)・rs10925027 (NLRP3)・rs4612666 (NLRP3)について、健常人群とサルコイドーシス群での比較を行った。特にNLRP3について関連する傾向を認めたものの、p値で0.05以下を示した遺伝子多型は無かった。以上の結果から、サルコイドーシスの発症と関連する自然免疫因子に関して、細胞質内に局在するタイプの内、NOD1は関連し、インフラマソーム関連因子であるNLRPは関連性が低いことを明らかにした。このことはサルコイドーシスの病院において、原因菌であるアクネ菌に応答してアポトーシスを誘導するNOD1の経路の方が、炎症を誘導するインフラマソームの経路よりも発症に影響することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的な肉芽腫形成疾患であるサルコイドーシスについて、自然免疫因子の異なる関与を明らかにした。サルコイドーシスの原因菌として同定されているアクネ菌に対して、NOD1とNLRP3インフラマソームの両方が応答する。しかし発症との関連に関しては、NOD1は相関を示すが、NLRPは示さないことを明らかにした。このことはサルコイドーシスの病院において、原因菌であるアクネ菌に応答してNF-κBを産生するNOD1の経路の方が、IL-1βやIL-18を産生するインフラマソームの経路よりも発症に影響することを示唆する。サルコイドーシスの発症に関連するNOD1の遺伝子多型については、機能が約50%低下することをこれまでに報告している。今回解析したNLRP3の遺伝子多型については、これまで機能亢進型の機能変化をもたらし、食物アレルギーとアスピリン喘息の発症に関与し、日本人の免疫能に影響することが報告されている。NOD1とNLRP3は同じ細胞質内の自然免疫因子であるが、NOD1がアポトーシスの誘導に関与するのに対し、NLRP3は炎症の誘導に関与している。この結果からサルコイドーシスの発症機序は、細胞内に浸潤するアクネ菌に対して、通常はNOD1が充分に応答して感染細胞にアポトーシスを誘導することにより感染の拡大を防御しているが、NOD1が機能低下を示す場合には、感染細胞に対して十分なアポトーシスを誘導することができず、アクネ菌が増殖し、その過剰に増殖したアクネ菌に対し、NOD1以外の免疫因子が過剰に活性化されて細胞性免疫応答が過剰になり、サルコイドーシスの病変を形成する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
サルコイドーシスを中心として難治性肉芽腫形成疾患の発症機序について解明を進める。さらに加齢に伴う自然免疫関連遺伝子の発現変化、およびその調節機構の解析を進める。特に自然免疫因子のNOD1がサルコイドーシスの発症に関与し、NLRP群が発症に関与していないという結果を基に、発症機構に関する解析を行う。肉芽腫形成疾患はサルコイドーシスやクローン病を含めて加齢に伴う症状の変化を示す。このため発達段階における自然免疫因子の発現を解析することにより、発症に関連する因子の同定につなげることができ、発症機構の解明につがなることが期待できる。さらにその情報が新規の予防法・治療法開発につながることが予測できる。自然免疫因子全体の発現が相互に影響することが明らかになっている。このため解析する因子はNOD1だけでなくNLRP群もふくめて解析を進める。自然免疫因子の異常は糖尿病や肝線維症や心筋梗塞や脳血管障害などの生活習慣病の発症に関連することが明らかになっている。このため、本研究によって得られる結果が生活習慣病の発症に関する分子機構の解明に寄与することが期待できる。さらにその応用により、新規予防法・治療法開発の論理的基盤の形成につなげる。
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