研究課題/領域番号 |
25461512
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
狩山 玲子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40112148)
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研究分担者 |
村上 圭史 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (10335804)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 難治性感染症 / 緑膿菌 / 治療 / クオラムセンシング阻害剤 / リアルタイムイメージング |
研究実績の概要 |
多剤耐性菌に対する新規治療薬の開発は喫緊の課題となっており、細菌クオラムセンシング(QS:細胞密度依存的)機構を阻害するQS阻害剤が注目されている。本研究課題では、先進的リアルタイムイメージング法による実験モデル系と分子生物学的手法を駆使して、QS阻害剤の作用機序解明を目指す。 ① QS阻害剤(QSI-1)のQSシステムに対する効果の検討:QSI-1添加による緑膿菌遺伝子発現の影響を検討するため、lasB、rhlA遺伝子発現の経時的な解析を行った。また、lasI、rhlI遺伝子欠損株を作製し、殺菌試験を行った。その結果、QSI-1はQSシステムとは異なるメカニズムで、抗菌薬感受性を増強している可能性が強く示唆された。② QS阻害剤(QSI-1)による抗菌薬抵抗性への影響:これまでに、in vivoリアルタイムイメージング法により、QSI-1がカルバペネム抗菌薬であるビアペネムだけでなく、キノロン系、アミノグリコシド系抗菌薬に対しても併用効果があることを見出している。in vitroの殺菌試験においても、QSI-1はこれらの抗菌薬との併用効果があることを明らかにした。③ QS阻害剤(QSI-1)による抗菌薬耐性菌への効果の検討:in vitroでの殺菌試験において、標準株(PAO1株)由来および臨床分離株由来の抗菌薬耐性菌に対して、抗菌薬の濃度を増加することにより、QSI-1との併用効果が発揮され、QSI-1が耐性菌に対しても有効であることを明らかとした。④ in vivo実験:新規マウス薬効評価系である発光性緑膿菌による尿路感染症モデルを再現性のある実験モデルとして確立した。マウス大腿部感染モデルでは、外膜透過孔蛋白質(OprD)が欠損したビアペネム中等度耐性菌に対しても、ビアペネムとQSI-1との併用効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① QS阻害剤(QSI-1)のQSシステムに対する効果の検討において、QSI-1にはQS阻害とは異なる作用機序が存在する可能性が示唆された。② in vitro 殺菌試験においては、カルバペネム抗菌薬であるビアペネムだけでなく、各種抗菌薬に対してもQSI-1との併用効果があることが明らかになった。また、QSI-1が抗菌薬抵抗性に影響を与えていることが明らかとなった。③ in vivo実験においては、発光性緑膿菌によるマウス尿路感染症モデルを再現性のある新規薬効評価系として確立し、マウス大腿部感染モデルでは、外膜透過孔蛋白質(OprD)欠損株に対しても、ビアペネムとQSI-1との併用効果が確認された。 上記①~③の実験結果から、着実な研究成果の蓄積が行われていると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果から、QS阻害剤(QSI-1)が抗菌薬感受性を増強させるメカニズムについて、QS阻害とは異なるメカニズムによるものであることが強く示唆された。そこで、平成27年度は、その作用機序について更なる検討を行う予定である。具体的には、まずマイクロアレイを用いて、QSI-1添加による遺伝子発現の変動を網羅的に解析する。次に、その結果に基づき、抗菌薬抵抗性に関連があると考えられる遺伝子について、リアルタイムPCRを行い、遺伝子発現の変動について詳細な解析を行う。それらの結果をもとに、QSI-1が作用している抗菌薬感受性のkeyとなる遺伝子のノックアウト変異株を作製し、それらの変異株について、抗菌薬に対する感受性の変化を検討することにより、QSI-1の作用機序を明らかにしていく予定である。 一方で、新規QS阻害剤のスクリーニングにも着手し、in vitroバイオフィルム実験系(フローセルシステム)において、バイオフィルム形成阻害効果について評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者(狩山)の役割分担であるin vivo実験は、平成26年11月~平成27年夏ごろまで、岡山大学自然生命科学研究支援センター動物資源部門鹿田施設の感染実験室が耐震改修工事のため使用不可能な状況であり、予定額を使用しなかった。 一方、研究分担者(村上)においては、QS阻害剤(QSI-1)が抗菌薬感受性を増強させるメカニズムについて、マイクロアレイ等の解析を行う予定であったが、この阻害剤が耐性菌に対しても有効である可能性がin vitro実験成績より示唆されたため、こちらの実験に多くの時間を要し、予定額を使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者(狩山)は、平成26年度までにin vivo実験において得られた実験データの詳細な解析を行うので、繰越額をパソコンと周辺機器ならびに解析ソフトの購入にあてる。繰越額の一部と平成27年度の直接経費は、新規QS阻害剤をスクリーニングするために必要な機器・器具類や細菌培養用実験の消耗品等の購入にあてる。研究分担者(村上)は、繰越額と合わせた平成27年度の直接経費を、マイクロアレイやリアルタイムPCR等の遺伝子発現の解析、分子生物学実験用試薬類、細菌培養用実験の消耗品等の購入にあてる。平成27年度に新しく研究分担者として追加した和田は、in vitroバイオフィルム実験系(フローセルシステム)での実験に必要な消耗品等の購入や共同実験室の機器使用料金にあてる。 また、研究代表者と研究分担者は、研究成果発表のための学会等への出張旅費、研究打ち合わせのための旅費、研究成果の論文化に向けての必要経費にもあてる。
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