我々は、ウイルス由来の二本鎖RNA(dsRNA)と同様の免疫活性を持つ合成dsRNAであるPoly(I:C) が、野生型マウスにおける22L株プリオン感染後の発症までの潜伏期間を短縮し、プリオン感染神経芽細胞中の異常型PrP蓄積を増大することを示唆する実験結果を得ている。さらに、異なるプリオン株におけるPoly(I:C)のプリオン感染促進作用を解析したところ、Poly(I:C)はChandler株プリオン感染神経芽細胞中の異常型PrP蓄積を増大し、異なるプリオン株においても同様の結果が得られた。 dsRNAを認識するToll-like receptor 3(TLR3)、Retinoic acid-inducible gene-I(RIG-I)、Melanoma differentiation-associated protein 5(MDA5)などの自然免疫関連因子の発現ベクターをマウス神経芽細胞にトランスフェクションし、異常型PrP蓄積の変化を解析したところ、TLR3、RIG-I、MDA5を高発現させることによって、プリオン感染後の異常型PrP蓄積は増加した。一方、一本鎖RNAを認識するTLR4、細菌由来のリポ多糖を認識するTLR8の導入は、異常型PrP蓄積に影響しなかった。以上の結果より、プリオン感染にPrP以外の修飾・補助因子としてdsRNAとその宿主側シグナル分子群であるTLR3、RIG-I、MDA5などの自然免疫関連因子が働いていることが示唆された。 さらに一本鎖RNA、リポ多糖は、野生型マウスにおける22L株プリオン感染後発症までの潜伏期間に影響を及ぼさず、また、プリオン感染神経芽細胞中の異常型PrP蓄積に対しても影響しない結果が得られた。これらの結果より、dsRNAが特異的なプリオン感染促進分子であることが示唆された。
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