研究課題
これまでにウイルス感染時の特徴的な干渉現象や自然免疫機構の活動がプリオン感染時においても見られることが証明され、ウイルスなど異常型PrP(PrPSc)以外の因子の関与が示唆されている。本研究では、プリオン病における二本鎖RNAの病態生理学的意義を解明することが目的である。研究代表者らは、ウイルス由来の二本鎖RNA(dsRNA)と同様の免疫活性を持つ合成dsRNAであるPolyI:C が、野生型マウスにおけるプリオン感染後の発症までの潜伏期間を短縮し、マウス由来神経芽細胞腫細胞株(N2a58細胞)におけるプリオン感染後のPrPSc蓄積を増大することを確認した。一方、一本鎖RNA、二本鎖DNA、LPSは、潜伏期間やPrPSc蓄積に影響しなかった。これらの結果は、dsRNAがプリオン感染を促進し、プリオン病を増悪させる因子であることを示している。PolyI:CによるPrPSc蓄積増大作用は、PolyI:Cを前処置しPBSによる洗浄を行った後のプリオン感染でも観察され、さらに、無細胞系であるPMCA法においても、PolyI:CはPrPSc増幅に対して有意な作用を示さなかった。このことから、PolyI:CのPrPSc蓄積増大作用はPrPScへの直接的な作用によるものではなく、宿主側シグナル分子群が関与していることが示唆された。dsRNAを認識するTLR3、RIG-I、MDA5などの自然免疫関連因子の発現ベクターをN2a58細胞に導入し、PolyI:C非存在下におけるプリオン感染後のPrPSc蓄積を解析したところ、TLR3、RIG-I、MDA5を高発現させることによって、PrPSc蓄積は増加した。一方、一本鎖RNAを認識するTLR4、LPSを認識するTLR8の導入は、PrPSc蓄積に影響しなかった。また、TLR3、RIG-Iに対するsiRNAのN2a58細胞への導入は、PrPScの蓄積に対して抑制傾向を示した。以上の結果より、プリオン感染にPrP以外の修飾・補助因子としてdsRNAもしくはdsRNA様因子と、その宿主側シグナル分子群であるTLR3、RIG-I、MDA5などの自然免疫関連因子が働いていることが示唆された。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件)
Scientific reports
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