研究課題
基盤研究(C)
肺炎は本邦での死因の第3位であり、増加傾向にある。肺炎の診断では原因微生物の同定に苦慮することが多く、また近年薬剤耐性の病原体による呼吸器感染症の蔓延も治療上の大きな問題となっている。結核感染症も依然我が国において大きな問題であり、その背景に地域の高齢化、過疎化、医療資源の枯渇化がある。肺炎の原因病原体の簡易迅速確定診断・薬剤耐性判定システムが構築できれば医療の現場が受ける恩恵は大きいと考えられる。今回我々は、簡便で迅速な遺伝子増幅検査法であるリアルタイムPCR法を用いた結核およびその他の肺炎の簡易迅速確定診断・薬剤耐性判定システムの構築とその地域医療への応用を目指す。具体的には1)マルチプレックス・リアルタイムPCR法を用いた肺炎の迅速確定診断系と、2)マルチプレックス・リアルタイムPCR法を用いた細菌の外因性プラスミド由来薬剤耐性遺伝子の検出系、および3)High Resolution Melt(HRM)解析法とサイクリングプローブ法を用いた肺炎原因病原体の薬剤耐性遺伝子変異の迅速スクリーニング検査系の3つからなる系を想定している。この系が作成できれば、臨床検体採取後約2時間程度で、より迅速に低コストで肺炎の鑑別診断と薬剤耐性の有無の推定が可能となり、地域の高齢化・医療過疎化の中でのより効率的な結核・呼吸器疾患コントロール対策モデル作りに繋がると考えられる。初年度である平成25年度には主に迅速鑑別診断用のTaqManマルチプレックス・リアルタイムPCR法の系を一般市中病院の検査室に導入し、臨床検体の収集と解析を行い、地域医療における臨床診断業務に寄与すると同時に、診断系の作成のために必要な病原体サーベイランスと遺伝子配列情報の解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
初年度である平成25年度には迅速鑑別診断用のTaqManマルチプレックス・リアルタイムPCR法の系と、薬剤耐性判定のためのHRM解析法およびサイクリングプローブ法の系の作成を行った。本年度は主に臨床検体の収集と解析を行い、地域医療における臨床診断業務に寄与すると同時に、診断系の作成のために必要な病原体サーベイランスと遺伝子配列情報の解析を行った。TaqManマルチプレックス・リアルタイムPCR法の系は現在21種類のウイルスと9種類の細菌の検出が可能であり、長崎県諫早市にある日本赤十字社長崎原爆諫早病院(諫早日赤)において肺炎診断や院内感染対策のために既に診断のための補助として用いられている。同院において今年度呼吸器感染症患者からの532検体を検査した。同時に長崎大学小児科と連携し長崎県諫早市内の小児科医院を受診した上気道炎・肺炎患児からインフォームドコンセントのもと臨床検体(鼻咽頭ぬぐい液)の提供を受け、298検体の原因微生物について検査を行った。現在これらの結果を解析しまとめを行っている。このマルチプレックス・リアルタイムPCRの系は、長崎大学熱帯医学研究所でアフリカのスーダン共和国における小児呼吸器感染症の原因ウイルスサーベイランスのためにも用いられ、その結果は論文発表された。HRM解析法とサイクリングプローブ法の系を作成するためにプライマーとプローブのデザインは上記解析による薬剤耐性情報、遺伝子配列情報をもとに現在行っており、既に結核、マイコプラズマ、A型インフルエンザに関しては使用可能である。今年度はこれらと同時に、諫早日赤病院において今後本研究に必要なより科学的な検査を行うための検査室のセットアップも行い、核酸定量や細胞培養のための設備の導入を行い、本年度でほぼ完了した。
次年度の平成26年度以降は、現在のマルチプレックス・リアルタイムPCRの系を用いた検査を継続するとともに、HRM解析法とサイクリングプローブ法の系も諫早日赤病院に実際に導入し、周辺医療機関の協力も得て、外来や病棟レベルにおける迅速確定診断や院内感染制御への応用を目指す。また、これら簡便、安価で正確な迅速診断技術の日本全国の医療機関への紹介、さらには発展途上国における導入も模索していく。本研究の全期間を通じて長崎県央地域の結核を含む呼吸器感染症のサーベイランスを行い地域医療に貢献しながら、同定される病原体の微生物学的な解析を行っていく。また結核菌の新しい培養技術の開発を目指す。
必要試薬の一部に現時点では調達にやや時間がかかるものがあり、調整が必要であったため。試薬・消耗品費として平成26年度中に使用する。
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Virology Journal
巻: 10 ページ: 312-321
10.1186/1743-422X-10-312