研究課題/領域番号 |
25461518
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
山本 夏男 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (50466562)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 初期抗体 / TNFα / バイオマーカー / 炎症蛋白 / IgM / 自然抗体 / IL-13 |
研究実績の概要 |
肺炎球菌による血流感染モデルでは、以前の結果同様にIL-13KO群は野生型に比べて平均生存期間の有意な短縮が認められ、再現された。この理由を明らかにするために①血清中IgMの量と質を群間で比較、②臓器別のバイオマーカーの動態(CXCL2、IL-1β、TNFα、CRP、プロカルシトニン関連ペプチドなど)を感染後早期からRT-PCRを用いて継時的に定量し、群間で比較した。その結果IL-13KOでは血清中のIgMが野生型に比べ、感染前後で有意に低値であった。また感染後2.5時間後より肝臓内でのTNFα合成が有意に低下している点が明らかになった。これよりIL-13は①中和作用のあるIgMのB1細胞による産生と②感染後急性時期の全身炎症の調節の双方に関与していると考え現在論文化を行っている。 Candida albicansの静脈内感染モデルを、野生型BALB/cとIL-13遺伝子改変(KO)マウスで検討した。感染後3日目で感染臓器である腎臓のTGFβが野生型で蛋白レベルでIL-13KO群よりも上昇した。感染臓器である腎臓内で残存するカンジダ生菌は感染後4日目でIL-13KO群で低値(有意差と再現性あり)であった。また感染後3時間目で腎臓の臓器細胞からRNAを抽出し、定量型のリアルタイム(RT)PCRを行ったところ、早期のTh1関連のサイトカイン、ケモカイン(TNFα、iNOS、IL-6、IFN-γ)がIL-13KO群で高く、感染後4日目以降ではこの差が認められなくなっていた。これらの観察結果より、IL-13はカンジダ血流感染症初期に炎症のピークやそれに伴う貪食関連のメディエータ―を抑制すると考えられた。この機序にカンジダ感染早期のIL-13依存的なTGFβの臓器内での増加が関与すると考えている。この一連の結果を現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺炎球菌の血流感染に関して、平均生存期間の短縮の理由として宿主保護的に作用するIL-13の役割を検討することができた。①初期IgMの産生性と②肝臓内TNFαの産生性という2点が新しい機序として確認されており、論文化と報告を予定している。 上記と別にカンジダによる血流感染初期にIL-13の有無で臓器の炎症応答、菌体の排除の効率などに変化(一時的な防御能の減弱)がある点を以下のように実験結果として明らかにし、投稿中である。具体的には感染後3時間の時点で、腎臓内から産生されたIL-6、TNF-α、ケモカイン(CXCL 2)、インターフェロン(IFN)-α、Ym1などのmRNAが、IL-13欠損動物で高値であった。逆に抗炎症作用を有する分子であるトランスフォーミング増殖因子(TGF)-βは野生型動物由来の腎臓から高値に検出された。これらの新しい知見に関しては疾患患者や人で同様の検討を行うことは困難であるが、本研究実施によってこの困難な部分の知見が得られた。 これらの結果より、種々の病原微生物菌体が有する多糖体はIL-13を介してTh2関連の応答を生じることが改めて示唆された。IL-13は過剰な炎症の減弱、時に緩和、あるいは恒常的なIgM産生や調節などにも関わる点を示す結果を得た。このため感染免疫分野では新しい知見と報告の機会が本研究過程で得られたと考えている。
本研究の計画実施、結果の吟味、論文化の過程を通じて感染症学、救急医学などの分野でも医学的に意義のある新しい方法と知見を得ており、これらの内容の論文化に尽力することが急務であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現行の肺炎球菌血流感染モデルを用いて、感染後3時間以内で臓器別に種々のバイオマーカーをRT-PCRで検出可能となったため、多くの新規分子の役割を急性感染症のモデルで確認していくことが可能となった。この点を更に発展させたい。 長鎖多糖体、特にキチンなどを菌体成分にもつカンジダではIL-13を介したTh2様の応答とTGFβの産生が感染臓器で生じ、急峻な炎症のピークの形成を抑制している可能性が示唆された。これは感染の条件によっては、感染直後の菌体の排除を一時的に鈍麻させる。またIL-13がクラススイッチを誘引する点などを考慮すると、このTh2関連のサイトカインには恒常的なIgM産生性、感染直後の炎症を緩和する作用、またTh2タイプの作用と逆なので意外であるが、感染臓器内のTNFαの増加作用なども有すると考えられた。こうした生体の感染応答に関わる作用の機構を更に分子レベルで明らかにし、人での検討を計画するには困難な、感染後早期、急性期の各種バイオマーカーなどとの相互作用も今後検討していきたい。 更にこれまでの実験手法と最新の分子生物学的な手技を用いることで、重篤な感染症を生体が被る際の微生物側の責任因子、および生体側の関連分子、それらの作用する条件などを更に詳細に検討することが可能となった。本報告の時点では、既に肺炎球菌を含む連鎖球菌が保有する多糖体及び蛋白成分の一部に、生体側の炎症応答を一時的に抑制、ないしは麻痺させるかのような新規の生体応答機構を推測させる結果を、本報告年度としてはじめて得ている。この機構を更に分子レベルで解明していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画内で比較的大きなコストを占める蛋白やサイトカイン測定方法を、マルチプレックス解析に変更していく予定を希望した。このため20万円程の金額である、専用ビーズの購入を次年度の初期に行うこととし、年度内の蛋白やサイトカイン測定用消耗品(特にELISA関連)の購入を次年度にまとめる目的で、約半分の額を繰り越し方針としたため。
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次年度使用額の使用計画 |
ミリポア社製のLuminex用試薬、5種類の蛋白、サイトカイン測定用ビーズセットを6月までに測定項目を決定してから購入する予定である。測定用機器は当大学施設内に供用実験設備として既に存在し、複数の講座が共用として利用している。
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