研究課題
血液中抗HIV剤濃度の測定は、治療効果の最適化と薬剤耐性獲得の防止のために重要である。しかし、薬剤の代謝は個人差があり、また薬剤血中濃度は日内変動が大きいことが知られている。一方、毛髪中の薬剤量は平均的な薬剤血中濃度を反映していると考えられており、毛根側から先端にかけて薬剤量を測定することにより血中濃度の長期的推移を推定できることが期待される。抗HIV剤の一つであるツルバダは、逆転写酵素阻害剤であるテノフォビル(TFV)とエムトリシタビン(FTC)の合剤であり、服薬が1日1錠であることから、現在HIV治療薬として国内で広く用いられている。今回我々はビーズ破砕による毛髪からの薬剤抽出法を確立し、LC-MS/MSを用いてツルバダ服用開始後35日と56日の2人の感染者からの毛髪および血漿中の薬剤量を測定した。服用開始後35日の感染者の毛髪を測定した結果、毛根側から10 mmの毛髪からはTFV 12 fmol、FTC 253 fmolが検出され、10 mm以降の毛髪からは両薬剤とも検出されなかった。血漿中薬剤濃度に対する毛髪中薬剤濃度の濃縮比を調べた結果、TFVが0.307倍に対してFTCは1.44倍であった。服用開始後56日の感染者の毛髪を測定した結果、毛根側から10 mmの毛髪からはFTC 15.1 fmol、10 mmから20 mmの毛髪からはFTC 6.1 fmolが検出され、20 mm以降の毛髪からはFTCが検出されず、TFVはすべての部分で検出されなかった。FTCの血漿中薬剤濃度に対する毛髪中薬剤濃度の濃縮比は1.24倍であった。ヒトの毛髪は1カ月でおよそ10 mm伸長することが知られており、2例とも薬剤を服用した期間生長した毛髪から薬剤が検出された。今回の研究で、毛髪中薬剤量を測定することにより、TFVとFTCの血中濃度の長期的推移を推定できる可能性が示された。またTFVの毛髪への移行性は低く、FTCに対して5分の1であった。今後より多くの検体について測定と解析を行いたい。
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