研究課題
基盤研究(C)
健常人糞便由来CTX-M-8産生大腸菌(2010分離1株、2011分離2株、2013分離2株)および患者検体由来CTX-M-8 産生大腸菌(2012年分離株)それぞれ5株および1株、さらに5株のブラジル産鶏肉由来CTX-M-8 産生大腸菌を供試菌株とした。次世代シークエンサーを用いて全ゲノム配列の決定を試み、以下の結果が得られた。1) 全ての供試菌株は、blaCTX-M-8と100%一致する遺伝子を保有した。2) Sequence typeを決定したところ、患者由来株はST127、健常人由来株はST69、ST131、ST2278、ST4387、ブラジル産鶏肉由来株は、ST10、ST155、ST648 および新規alleleであり、ヒト由来株と鶏肉由来株の大腸菌の起源は異なっていた。3) ヒト由来株およびブラジル産鶏肉由来株からは、複数のIncをコードする遺伝子が検出されたが、共通するInc型はIncI1であり、その塩基配列は完全に一致した。4) 耐性因子としてCTX-M-8のみ保有する菌株がヒト由来大腸菌およびブラジル産鶏肉由来株にそれぞれ3株および1株認められた。人由来CTX-M-8産生大腸菌およびブラジル産鶏肉由来CTX-M-8産生大腸菌が保有する耐性因子をコードする遺伝子は、それぞれ平均1.67遺伝子(1~3遺伝子)および平均5.8遺伝子(5~7遺伝子)であった。すなわち、ブラジル産鶏肉由来株の方が多くの耐性因子を保有していた。ブラジル産鶏肉由来株が保有するblaCTX-M-8以外の耐性遺伝子は、アミノ配糖体系薬、サルファ剤、クロラムフェニコールおよびテトラサイクリン系薬耐性遺伝子であった。一方、ヒト由来CTX-M-8産生大腸菌が保有するblaCTX-M-8以外の耐性遺伝子は、blaTEM-1の他、テトラサイクリン系薬およびサルファ剤耐性遺伝子であった。
1: 当初の計画以上に進展している
2013年度下半期、次世代シークエンサーが当教室に導入され、全ゲノム解析を外注せずに自施設で実施することが可能となった。そのため、研究の初期段階から全ゲノム配列を得ることができた。現在までに患者および健常人の糞便由来blaCTX-M-8保有大腸菌およびブラジル産鶏肉由来blaCTX-M-8保有大腸菌の、blaCTX-M-8の塩基配列の確認、その周辺構造の一部の解析、multilocus sequence typing、保有する耐性遺伝子解析などが完了した。次世代シークエンサー導入からそのデータ解析まで、私たちが比較的円滑に研究を進めた理由は、国内外の研究協力者の支援が非常に大きかった。これまでに読み取ることができなかった遺伝子領域に対しては、研究協力者のアドバイスに従って、再度次世代シークエンサーを用いて詳細なデータを取得する予定である。
先に述べたとおり、今回は十分なデータが得られた訳ではない。特に、blaCTX-M-8の周辺遺伝子構造のDNA塩基配列は不完全であるが、解析対象とした菌株はすべてIncI1を保有していることが明らかとなった。今後は、今回の11菌株のみを対象に次世代シークエンサーによる解析を再実施する。これにより、150程度のcoverageが期待され、解読できない箇所が極めて少なくなる。さらに、blaCTX-M-8保有菌のプラスミドを解析することを目的として、菌体をアガロースゲルに包埋・溶菌処理後、S1 nuclease 処理したゲノムDNAをパルスフィールド電気泳動法で各菌株のプラスミドを分離・抽出する。ゲルから抽出されたプラスミドは、次世代シークエンサーを用いてプラスミドゲノム解析を実施する。プラスミドはゲノムサイズが小さく、この解析を実施することにより、各プラスミドの詳細な構造が明らかにする。以上の検討から本年度中に、健常人、患者およびブラジル産鶏肉由来CTX-M-8産生大腸菌の概要を明らかにすることができる。
概ね計画通りに使用したので、繰越額は小額となった。Miseq Reagent kitを3キット購入し、全ゲノム解析1回とプラスミド解析2回の合わせて3回、次世代シークエンサーを用いてデータを取得する。次世代シークエンサー用の試薬は高額であることから、残額は次年度の支給金額と合わせて、適切且つ有効に交付金を使用し、研究成果を挙げたいと考えた。
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