研究課題/領域番号 |
25461525
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
竹村 弘 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (80301597)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カルバペネム薬 / 抗菌薬 / A549細胞 / 培養細胞 / 失活 |
研究概要 |
平成25年度は、主に細胞培養上清のカルバペネム薬失活効果の評価系を、より簡便で安定したものにすることに重点を置いた。従来の実験系では、24穴のプラスチックプレート(10%FCS/RPMI1640)中で18時間培養後、細胞培養上清を無血清RPMI1640培地に置換後、数時間(典型的には3時間)の前培養後に上清を粗抽出液として回収する。この抽出液を別の試験管中で段階的に希釈した後、抗菌薬を添加、15分~数時間(多くは2時間)培養し、直後に-80℃で凍結保存。後日にペーパーディスクを用いた細菌学的bioassay法で阻止円直径から含有抗菌薬量を計測し、コントロール比として結果を算出してきた。この方法の難点として、①1回の実験に長時間を要する、②実験毎の培養の状況によって結果が不安定、③細菌学的bioassay法では抗菌活性がある物質の存在下では活性を判定不能なことなどが挙げられる。今年度の研究で、粗抽出液を-80℃で凍結保存し後日検査しても、回収直後と同程度のカルバペネム薬失活効果があることが判り、あらかじめ大量(数十mL程度)の粗抽出液を採取、凍結保存することで、より安定した実験結果を得ることができた。また、これらの検討中に温度及び時間依存的に培養上清のカルバペネム失活活性は減弱することが判り、95℃、45分の熱処理でほぼ完全に活性が消失することも判った。 またヒト単球様細胞株THP-1細胞、子宮頸癌細胞株Hela229細胞、喉頭癌細胞株HEp-2細胞などについて同様の検討をし、細胞種によってカルバペネム失活活性に差があることが判った。さらに現在このカルバペネム失活活性に対するβラクタマーゼ阻害薬の影響を検討中である。これらの知見を基に今後さらに研究を発展させ、この現象のメカニズムを探求し、ひいては抗菌薬の体内動態に対する細胞の影響について解明したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、様々なヒト由来の培養細胞をある条件で培養すると細胞培養液中の抗菌薬(カルバペネム薬)が失活する現象のメカニズムの解明を、当面の主な目的とした。しかし現在は、カルバペネム失活活性をより簡便かつ正確に評価できる実験系を確立するとともに、それを用いて抗菌薬を失活させる細胞、その培養条件、失活する抗菌薬の種類などの検討を優先している。この成果に関しては第61回日本化学療法学会総会で発表した。また将来的に、この細胞によるカルバペネム失活活性が、細菌感染症に与える影響を検討することを想定し、多剤耐性アシネトバクター菌に対する各種抗菌薬の併用効果を簡便に検討できる実験系の作製について検討し、その結果を第25回日本臨床微生物学会総会で発表した。カルバペネム薬失活の原因物質の探索という方向性では、現在までの検討で培養上清中の原因物質を特定できておらず、やや手詰まりの感が否めないが、上述のごとく、ある程度の知見を得ることができているため、達成度としては、②のカテゴリーとした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの研究で、特定の条件で培養した細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活すること及び、この現象の大まかな挙動が明確になった。そのメカニズムの解明にも取り組んでいるが、現在までの検討で培養上清中に顕著なタンパク質やペプチドの新生は認められず、培養液のPHの変化もない事が判っている。カルバペネム失活のメカニズムの解明は難航するものと考えられるが、現在βラクタマーゼ阻害薬などで、この現象が阻害されないかを検討している。 培養上清を-80℃で凍結保存し融解した検体においても活性は無くならないこと、活性は熱に対して安定であることなどが判明したので、安定した活性が得られる検体を質量分析装置などで分析し、原因物質の特定を目指したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年までの研究で、特定の条件で培養したヒト細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活する現象の大まかな挙動が明確になったが、そのメカニズムの解明は難航するものと考えられ、現在抗菌薬を失活させる細胞、失活する抗菌薬の種類などの検討を優先的に行っている。このため、当初費用がかさむと考えられた原因物質の特定が十分に行われていない。また今年度は、研究成果を学術論文にまとめたり、国際的な学術雑誌、学会等で発表したりする機会も無かったため、来年度以降に研究費を繰り越して使用したいと考えている。 ヒト培養細胞によるカルバペネム失活活性のメカニズム解明のため、質量分析装置、HPLCなどを用いた解析を予定しているが、解析を外部委託する可能性もある。また新たに細胞やHPLCカラムなどの高額の器材の購入する予定である。これらの結果を、国際的な学会、誌上で発表できるように準備したいと考えている。すなわち平成26年度以降は研究推進のために、より高額な研究費を用いて研究を推進するつもりである。
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