研究課題/領域番号 |
25461525
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
竹村 弘 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (80301597)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カルバペネム薬 / A549 / L-cysteine / 失活効果 / 培養上清 |
研究実績の概要 |
平成25年度は、主にカルバペネム薬失活効果の評価系を、より簡便で安定したものにすることに重点を置き、主にA549細胞を用いて、細胞を無血清RPMI1640培地で培養した際の培養上清液のカルバペネム薬失活効果を測定する系を確立した。平成26年度は、この結果を受けて、カルバペネム薬失活活性を有した細胞上清の代謝産物の質量分析による解析(CE-TOFMS、LC-TOFMS)し、カルバペネム薬失活活性を有した細胞上清検体に有意に多く含まれる物質を絞り込み、カルバペネム薬失活活性の有無をスクリーニングし、A549細胞培養上清のカルバペネム薬失活活性の原因物質の1つがL-cysteineであることを明らかにした。その後、5,5′-Dithiobis-2-nitrobenzoic acid(DTNB)を用いたEllman法でA549細胞の培養上清中に、培養開始後数時間程度でL-cysteineが放出され、その挙動と培養上清のカルバペネム薬失活活性はおよそ一致しており、この活性はL-cysteine単独による可能性が強いことが示唆された。平成27年度は、この現象を実験的に証明することに主眼を置いて実験し、その結果(1)A549細胞を無血清RPMIで培養した場合、上清中のCysは培養開始後1~8時間まで経時的に280μMまで増加すること、(2)培養液に10%FCSを添加すると上清中のCysは半減すること、(3)アミノ酸を含まない培養液ではCysは上清中に検出されないが、 RPMIと同じアミノ酸を添加すると、RPMIと同程度のCysが検出されること、(4) 各培養上清はCys濃度に依存してIPMを失活すること、(5)試薬から調整したCys溶液は、培養上清と同程度にIPMを失活することなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、様々なヒト由来の培養細胞をある条件で培養すると細胞培養液中の抗菌薬(カルバペネム薬)が失活する現象のメカニズムの解明を、当面の主な目的としてきた。この現象の原因物質の探索という点で、L-cysteine単独による可能性が強いことを実験的に裏付けることができた。このため達成度としては、(2) のカテゴリーとした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの研究で、特定の条件で培養した細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活すること及び、この現象の大まかな挙動が明確になり、そのメカニズムとして培養細胞によるL-cysteineの産生、放出によるものであることが判った。今後は、細胞上清中のL-cysteineが、どのように産生され、引いてはカルバペネム薬を失活するのかを解明するために、その原料と考えられるアミノ酸、特にL-シスチン・2HCLとの関係を明らかにするとともに、血清濃度やPHなどL-cysteineのカルバペネム薬失活効果に影響を与える因子について検討を加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年までの研究で、特定の条件で培養したヒト細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活する現象の大まかな挙動が明確になり、そのメカニズムとして細胞由来のL-cysteineによりカルバペネム薬が失活することが判った。当初、この失活メカニズムの解明及び原因物質の特定は難航し、外注検査を含めて研究費用がかさむと考えられていたが、考えていたよりも順調に特定でき、活性の挙動を解析する実験系も既存の方法で、比較的安価で行えているため今年度の研究費が予定よりも少なくて済んだ。また今年度は、研究成果を学術論文にまとめたり、国際的な学術雑誌、学会等で発表したりする機会も無かったが、平成28年6月に米国ボストンで開催される国際学会(ASM/ICAAC 2016)で現在までの成果を報告する予定なので、次年度に研究費を繰り越して使用したいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
ヒト培養細胞由来のL-cysteineによってカルバペネム薬が失活することを踏まえて、L-cysteineの産生に関わる因子の解析、多くの細胞、抗菌薬で同様の現象がみられないかなどを検討し、これまでの成果のまとめとする。さらに研究の総括として、国際的な学会及び誌上で成果を発表したいと考えている。
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