研究実績の概要 |
平成25-27年度の研究で、A549細胞を無血清RPMI1640培地で培養した際の培養上清液のカルバペネム薬失活効果を測定する系を確立し、細胞上清の代謝産物の質量分析により、細胞培養上清中のカルバペネム薬失活活性の原因物質がL-cysteine(Cys)であることが明らかになった。その後Ellman法でCysを定量し、A549細胞の培養上清中に、培養開始後数時間程度でCysが放出され、その挙動と培養上清のカルバペネム薬失活活性はほぼ一致しており、この活性はCys単独による可能性が強いことが判った。さらにA549細胞を無血清RPMIで培養した場合、上清中のCysは培養開始後1~8時間までは、経時的に増加し、アミノ酸を含まない培養液ではCysは上清中に検出されず、 RPMIと同じアミノ酸を添加すると、RPMIと同程度のCysが検出されることが明らかになった。またカルバペネム薬であるイミペネム(IPM)を培養上清が失活する効果は、Cys濃度に依存しており、試薬から調整したCys溶液は、培養上清と同程度にIPMを失活することなどが明らかになった。平成28年度は、これらの成果をまとめて、米国微生物学会(ASM Microb 2016, Jun16-20, Boston MA)で報告した。実験としては、この現象を再度確認する実験を繰り返した。調整したCys溶液によるIPM失活活性を時系列で検討し、この活性はCysの濃度依存的、反応時間依存的に増強されること、高濃度では30分で失活が観られるが、3時間以降はあまり増強しないことなどが明らかになった。さらにCysの他のカルバペネム薬であるメロペネム(MEPM)、ビアペネム(BIPM)、ドリペネム(DRPM)に対する失活活性を検討し、他のカルバペネム薬でも同様の失活は観られるが、MEPM、DRPMは比較的失活しにくいことなどが明らかになった。
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