研究課題/領域番号 |
25461527
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
福富 康夫 国立感染症研究所, その他部局等, その他 (30189956)
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研究分担者 |
星野 仁彦 国立感染症研究所, その他部局等, その他 (20569694)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 抗酸菌 / マクロファージ / NOX(phox) / 抗菌活性 / 蛍光色素 |
研究実績の概要 |
本研究では抗酸菌感染症における宿主の殺菌機構の分子生物学的解明を行うことを目的としている。抗酸菌はマクロファージを中心とした貪食系細胞に寄生して増殖する細胞内寄生菌である。宿主側はそのような細胞内寄生菌に対し細胞内に保有する殺菌関連酵素を用いて殺菌、もしくは増殖抑制を行って抵抗する。このような酵素は通常リソソームに含まれ、ファゴゾーム内に含まれている細胞内寄生菌に対しリソソームを融合させることにより殺菌を試みる。このような殺菌機構のほか、マクロファージは酸化窒素や酸素ラジカルを用いて殺菌作用を高める機構をも持ち合わせている。一般的にマクロファージはIFNγといった他の免疫細胞集団、特にT細胞が産生するサイトカインによって刺激を受け活性化して殺菌力を高める。よって、本研究では殺菌機構を可視化して解析することを試みており、IFNγ刺激を受けたマクロファージにおいて酸素ラジカル産生に関わるNADPHオキシダーゼ(Nox)酵素タンパクが抗酸菌周囲に集積する現象を見出した。方法論としてはin vitroで非結核性抗酸菌やハンセン病の起因菌であるらい菌を感染させて培養したヒト末梢血単球由来マクロファージをメタノールで迅速処理した後、菌を蛍光色素で標識し、さらに、生菌により代謝を受けると蛍光を発する色素を添加し共焦点レーザー顕微鏡下で観察した。その結果、生菌の減少とNADPHオキシダーゼ(Nox)酵素タンパクの菌周囲への集積量の増大が同時に見られる像が多く観察された。現在これら蛍光強度の数値化を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以前から細胞性免疫を増強する代表的なサイトカインであるIFNγには、マクロファージの活性化を誘導し同細胞の抗腫瘍活性や抗菌活性を増強する作用があることが分かっている。マクロファージの抗菌活性は、マクロファージと菌の混合培養から回収された試料中の生菌量を調べることで測定できる。また、特殊な例として、培養不能ならい菌の場合、感染したマクロファージかららい菌を回収し放射性同位元素で標識した基質の代謝活性を測定することで菌の生死を評価できる。但し、放射性同位元素を取り扱うという観点からt取扱施設が必要であり簡便ではない。そこで、種々の方法を比較検討したところ、生菌による代謝反応によってある色素分子が基質として作用し、蛍光を発する色素に変換され、その発色強度を比較する方法が有用な生菌数評価方法であることが分かった。しかも抗酸菌は増殖速度が遅く、菌を細胞から回収して培養を開始すると、細菌の一般的な生菌数測定方法である固形培地上でのコロニー法により目視できるようになるまでは数週間もかかる。それと比較すると蛍光色素発色のための培養と共焦点レーザー顕微鏡による画像解析は蛍光色素を加えてから一日以内で結果が得られるというメリットがある。但し、得られた画像の蛍光強度定量化の部分で改良の余地があるので方法論の確立の観点からは当初の計画より若干の遅れを生じている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年からの研究推進方策の継続ではあるが、今後はまず、多重染色試料を共焦点レーザー顕微鏡で観察して得られた画像の各種蛍光の強度定量化確立を第一目標とする。多重染色になると二重染色以上に染色法の改良も必要となる。特に、菌染色は重要なポイントであり、細胞内にあるすべての菌が生死に拘わらず染色されなければならない。その上で、殺菌にかかわる宿主細胞側の分子として着目している活性酸素(ROS)や酸化窒素(NO)について、ROSを供給する主要な機構はNADPHオキシダーゼ(Nox)や、Noxの中でNox2などのタンパクが別の色素で染められなけえばならない。Nox2による活性化には、ファゴゾーム膜上のgp91phoxとp22phoxに、細胞質由来のp40phox、p47phoxが会合することが必要であるといわれているが、われわれの観察結果ではヒトマクロファージのIFNγ刺激でこれらphoxタンパクが細胞内で著明に増加し、さらに抗酸菌を含むファゴゾーム周囲に集積することが判明した。このことはphoxタンパクのサブユニットが複合体を形成し活性型になっている可能性を示唆している。CTCは代謝活性を 有する生菌により還元反応を受けると蛍光を発するので、細胞内に存在する菌の生死判別に用いることができる。本研究ではIFNγで刺激したヒトマクロファージ中の抗酸菌の代謝活性が低下していることから、抗菌システムが働いていることが示唆された。今後、phoxの細胞内局在と菌のCTC還元反応による蛍光分子生成を共焦点レーザー顕微鏡で詳細に調べることで、NOXの殺菌作用への関わりがより詳細に解明できると思われる。そして、本研究計画の次のステップ、すなわちノックアウトマウスを使った研究に進むことができる 。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞内に存在する抗酸菌すべてを染色する方法の確立に戸惑ったため、生菌染色が確立できてはいたが生菌率を正確に算出することができず、本研究計画に遅れが生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
抗酸菌に対する種々の抗体を用いたり、抗酸菌菌体表面に存在する成分に対して特異的に反応する色素を利用することで、細胞内に存在するすべての抗酸菌数を算出できるようにする。その上で、生菌を蛍光色素発色法で検出し、さらに殺菌に関わる宿主細胞の各種酵素タンパクを染めて、共焦点レーザー顕微鏡で局在を調べる。これらの実験を遂行するための抗体や色素購入に充当する。
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