研究課題/領域番号 |
25461530
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研究機関 | 富山県衛生研究所 |
研究代表者 |
滝澤 剛則 富山県衛生研究所, その他部局等, ウイルス部長 (40192158)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ノロウイルス / サポウイルス / 感染性胃腸炎 / 食中毒 / 次世代シークエンサー / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
昨年度は、ノロウイルス(NoV)陽性の便または吐物乳剤を用いて次世代シークエンサー(NGS)の解析条件を検討した。その際、検体としてPCR増幅産物と、便または吐物乳剤から抽出した総RNAを用いた。その結果、ほとんどの検体で複数種のNoV遺伝子型が検出され、検体に極少数しか含まれない遺伝子型の検出にNGS解析は有効であると考えられた。しかしながら、各遺伝子型の検出リード数が少なく、発症に関与する遺伝子型は特定できなかった。 本年度は、通常の遺伝子検査で複数のNoV遺伝子型が検出された事例、あるいは検出されなかった事例を対象にして、解析領域を限定しないように、また、NoV以外の配列も検出できるようにメタゲノム解析を試みた。その結果、ほとんどの検体から複数のNoV遺伝子型が検出され、また、NoVに加えてアイチウイルスが検出された検体も存在した。リード数が最も多く得られたNoV遺伝子型は、通常のPCR産物のダイレクトシークエンスにより解読されたNoV遺伝子型と一致するものが多かった。一方、通常の解析でNoVが検出されなかった事例で、複数の検体からサポウイルス(SaV)が共通に検出される事例が存在した。以上から、メタゲノム解析により比較的多数のリードが得られる遺伝子型や、同一事例から共通に検出される病原体の配列は、発症に関与すると推定されることが判明した。NoVとともに検出されたアイチウイルスの発症への関与は特定できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度のNGS解析により検体に少数含まれるNoV遺伝子型が検出可能であることが判明した。本年度は、通常の解析で検出されるNoVの遺伝子型とNGSのメタゲノム解析で検出される遺伝子型とを比較し、複数検出される遺伝子型と発症との関連を推定することを試みた。また、NoVの感染が疑われながら通常の遺伝子解析では検出されなかった事例から、NoVあるいは関連する病原体が検出可能かどうか検討した。その結果、通常の遺伝子解析で検出された遺伝子型は、メタゲノム解析でも比較的リード数が多く解読される傾向を示すことが判明した。また、NoVが検出されなかった事例において、SaVが同一事例の複数の検体から共通に検出される事例が存在した。以上から、通常の解析と比較したり、あるいは複数の検体から共通に検出されたりするような場合は、発症との関連が推定できることが判明した。一方、メタゲノム解析では、解読される領域がNoV遺伝子の全長に亘るため、遺伝子型判定に用いられる領域以外のリードが多くなり遺伝子型の特定が困難であったり、あるいは各領域に対応するリードが希薄となり、リードに塩基配列の多様性が認められても、その解釈が困難であったりする場合が認められた。したがって、配列の多様性と病原性との因果関係を推定することは困難であったため、やや進捗に遅れが認められると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間で、NoVを原因とする集団発生事例のNGSによるメタゲノム解析手法の流れがほぼ確立された。得られたリードをレファレンス配列にアラインメントすると、リードがゲノムのほぼ全長に亘って存在していることが確認されたが、重複するリード数が少ないため、塩基のバリエーションが認められても、その意義を推定するまでに至らなかった。したがって、今後さらに総リード数を増やしていく必要があると考えられる。一方、重複するリードが希薄となるのは、メタゲノム解析の避けられない側面でもあるため、今後は、塩基のバリエーションよりは、同一事例に複数検出される遺伝子型と発症との関連をより重視して考慮していく。また、同一事例内の同一個体から複数回得られた検体のメタゲノム解析を行って、塩基のバリエーションの発生過程を解析し、その意義を探索する。
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