当初、自閉症スペクトラムの病態生理理解のため、網羅的遺伝子解析を行う予定であったが、自閉症スペクトラムの多彩な臨床症状、近年の報告による多様な原因遺伝子を鑑みると、このような網羅的遺伝子解析から自閉症スペクトラムの病態生理を理解するのは困難と判断した。むしろ原因遺伝子のはっきりした複数の自閉症スペクトラムの神経生理を検討し比較することで、自閉症スペクトラムに広く共通した病態生理を明らかにすることができれば、その方が疾患理解への寄与が高いし現実的であると判断した。そこで自閉症に関連する頻度が最も高いとさせる15番染色体長腕に注目し、その中で代表的な自閉症関連遺伝子であるUBE3Aの欠失によって引き起こされる神経機能障害を共同研究者とともにモデルマウスをもちいて検討した。その結果、1.GABA作動性の持続抑制がUBE3Aの欠失では減少していること。2.その減少は海馬、新皮質では明らかである一方、視床では減少していないこと が明らかになった。このような持続抑制の減少は他の自閉症スペクトラムモデルも報告され、自閉症に共通した神経病態生理である可能性がある。一方で脳の領域ごとに持続抑制減弱の程度が異なるという事実は新しい発見であり、このような領域間の抑制の程度の解離が、脳全体の機能障害を引き起こす原因のひとつではないか、との新しい仮説を提唱することができた。今後、今回の結果を他の自閉症モデルでも検証していく予定であり、アメリカとの共同研究で22q11.2重複モデルでも電気生理的検討を行うことが決定している。また患者のiPS細胞由来の神経をもちいても検証をすすめていく予定である。
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