研究実績の概要 |
先天性大脳白質形成不全症は,大脳白質のミエリンの先天的形成不全(髄鞘化障害)による白質病変を呈する疾患群である。本研究において、平成27年度末までに29例(男性22名,女性7名)を収集し、アレイCGHやエクソームシーケンス(WES)を含む遺伝学的検査を施行した。解析の結果、対象29例中19例(65.5%)で分子生物学的異常を指摘し得た。Pelizaeus-Merzbacher病と18q-症候群が最多で,それぞれ3例(11%)であった。WESにて6遺伝子(TUBB4A, POLR3B, KCNT1, AHDC1, MCOLN1, 新規候補遺伝子X),計8症例に病的変異を認め、髄鞘化障害の原因同定にWESが有用であることを確認した。 新規の疾患候補遺伝子Xは細胞質内tRNAのミトコンドリア内への輸送に関与することが分かっているが、髄鞘化障害に関連する報告はない。そこで、平成27年度は遺伝子Xの機能解析とこれまでの解析データの整理、および論文作成を行った。まず、ウエスタンブロットにて患者の線維芽細胞におけるX遺伝子の蛋白発現低下していることを確認。次に患者の線維芽細胞を用いてミトコンドリア機能を反映するとされているGDF-15を測定したところ著明に低下していることが確認された。さらに酸化ストレスによる患者線維芽細胞の脆弱性が、ミトコンドリア治療薬にてレスキューできることを確認し、ミトコンドリア機能異常を証明することができた。 WESを用いた網羅的な髄鞘化障害解析の研究成果について、学術雑誌に論文投稿を行い受理された(Hum Genet. 2016 Jan;135(1):89-98)。さらに2016年5月に国際小児神経学会議でも発表を予定している。今後、本研究で同定できた新規遺伝子異常が髄鞘化へどのように関与しているのか、解析していく予定である。
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