研究課題/領域番号 |
25461540
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
相原 正男 山梨大学, 総合研究部, 教授 (30242639)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 認知神経科学 / 前頭葉機能 / 発達障害 / 認知機能 / 情動機能 |
研究実績の概要 |
発達障害は前頭葉の機能障害であることが明らかにされてきたが、認知神経科学的立場から認知・情動処理系の相互作用と意思決定(decision-making)に関わる神経機構の発達は明らかとなっていない。特に発達障害児では認知と情動機能の乖離例が多く認められるため、エビデンスに基づいた治療法が確立していない。そこで本研究の目的は、新たに開発した神経心理学的課題で認知・情動処理系を神経生理学的に同期して解析することで、正常児の発達過程と臨界期を定量化する。さらに、発達障害の神経生理学的障害パターンを生物学的マーカーとして応用することで診断と治療に対する評価基準を確立することにある。 我々はこれまでに、実行機能検査として知られるWisconsin Card Sorting Test, Keio ver. (WCST) 施行中の瞳孔径の変化を計測することによって、実行機能には認知/情動機能が深く関わっていることを報告してきた。本研究では、WCSTのcognitive shift (CS) 時の瞳孔反応において、定型発達児(TDC)の発達変化について検討し、AD/HD児と比較検討を行った。WCSTは年少群では達成数低値、保続数高値の傾向があり、年中群と年長群では達成数が増加し、保続数が減少した。瞳孔径は年少群ではCS時一定の変化を認めなかったが、年中群では散瞳傾向を認め、さらに年長群では成人に類似したCS時散瞳、CS後正答時縮瞳のパターンに近づいていた。AD/HDではWCSTは達成数が3.2±1.7、TDC 5.1±1.1で有意に低く(p<0.01)、保続数もAD/HD 3.6±3.2、TDC 1.9±2.3とAD/HDで高い傾向を認めた。CS時のうち瞳孔径が最大になった時の変化値が、AD/HD 29.2±13.8、TDC 49.3±22.4とTDCに比べ有意に低値であった(p<0.05)。 瞳孔径変化は達成数の増加に伴って、成人パターンに近づいており、実行機能に伴う情動反応は経年齢的に発達し、biasとして実行機能に作用することが想定される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々はこれまでに、実行機能検査として知られるWisconsin Card Sorting Test, Keio ver. (WCST) 施行中の瞳孔径の変化を計測することによって、実行機能には認知/情動機能が深く関わっていることを報告してきた。さらに、今年度からWCSTのcognitive shift (CS) 時の瞳孔反応において、定型発達児(TDC)の発達変化について検討し、AD/HD児と比較検討を行うことができた。AD/HDの診断ツールとしてバイオマーカーに瞳孔計測は位置づけられると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題で得られた研究成果を平成28年8月6~7日に開催される認知神経科学会学術集会において、「社会脳の成長と発達」と題した会長講演を行い、さらに「社会脳の発達とその障害(発達障害)」というテーマでシンポジウムを企画している。 今後の研究課題として、AD/HD児の認知機能遂行時の情動反応は、年齢とともにその未熟性が改善しうるのかを検証し、薬物療法等の治療効果判定への臨床応用について検討していく方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画を効率的に進めることができた点と、既存の実験設備を共同して使用した工夫等により直接経費を節約できたため、実験計画が予想より順調に試行でき次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
未使用額は繰り越して研究成果の取りまとめや発表に係る費用(論文作成費、講師謝礼、学会出張費等)に充てる予定である。
|