発達障害は前頭葉の機能障害であることが明らかにされてきたが、認知神経科学的立場から認知・情動処理系の相互作用と意思決定(decision-making)に関わる神経機構の発達は明らかとなっていない。とくに、ADHDや併存障害では認知と情動機能の乖離例が多く認められるため、エビデンスに基づいた治療法が確立していない。そこで本研究では遅延報酬課題遂行中の情報処理過程において、情動性自律反応が関与するか評価することを目的とした。 Markov decision task (MDT)は強化学習課題として知られており、長期報酬を得る行動則を探索的に学習する過程における情動性自律反応の役割について、健常成人を対象として検討した。全被験者の長期報酬課題成績の平均値はセット1が-5±29.8、セット2が25±80.5、セット3が87.5±55.0と上昇しており(ANOVA p < 0.05)、Tukey法を用いた下位検定ではセット1と3の間に有意な差を認めた(p < 0.05)。全被験者を対象として、提示課題の種類毎に平均瞳孔径積分値を算出すると、セット1での大加点期待時と大減点リスク時の間に有意差を認め、大加点期待時に散瞳を認めた。また、セット3で理論上の最高得点を獲得した3例では、獲得得点呈示後の平均瞳孔径積分値とセット終了時の最終得点がグラフ推移上、平行に推移している傾向を認めた。 本研究によって、健常成人では長期報酬課題施行中の認知機能に情動機能が重要な役割を果たしていることが示された。今後、本実験の対象を小児に拡大し発達的変化について検討を行ったうえで、ADHD児の病態評価としての有用性を検討してゆく予定である。
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