研究概要 |
甲状腺ホルモン(TH)トランスポーター mct8 欠損マウスでは、視床下部の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)は過剰発現しており、THを大量投与しなければ抑制されない。一方、MCT8 異常症患児に 生理量の TH を投与すると 甲状腺刺激ホルモン(TSH)値は低下する。したがって下垂体では生理量の TH による negative feedback が機能していると考えられる。しかし、下垂体のTHトランスポーターの詳細は未だに不明である。そこで本研究では、下垂体において negative feedback を担うTHトランスポーターの同定を目指す。 1) 下垂体前葉におけるTHトランスポーター発現の網羅的検討 C57BL/6 マウス下垂体前葉より cDNA を作成し、RT-PCR 法で既知のTHトランスポーターを網羅的にスクリーニングした。検出したTHトランスポーター、mct8, lat1, lat2, oatp1a1, oatp1a4, oatp2b1, oatp3a1, oatp4a1 を定量的 RT-PCR 法により定量したところ、mRNAの発現量は 1.0:66.6:74.9:2.0:1.4:1.7:22.5:3.5 であった。 引き続き、マウス下垂体前葉の凍結組織切片を用い、in situ hybridization 法で lat1, oatp3a1 の発現を検討したところ、いずれも発現が確認された。 2) マウス下垂体由来 TSH 産生細胞におけるTHトランスポーターの発現解析 Dr. Pamela. L. Mellon, University of California, San Diego より供与された下垂体 TSH 産生細胞不死化株 TαT1 を培養し、実験条件の最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス下垂体前葉組織におけるTHトランスポーター mRNA 発現の網羅的解析は順調に進めることができた。しかしながら、同定したTHトランスポーターの下垂体前葉組織内における局在、およびTSH産生細胞における局在を示すための実験が手技的に難しく、予定通りに進められていない。すなわち、lat1, oatp3a1 が下垂体前葉の TSH産生細胞に発現していることを証明するため、in situ hybridization法施行後に抗TSH抗体(Dr. A. F. Parlow, National Hormone and Peptide Program, NIDDK より供与)との二重染色を行うと、洗浄過程が多くなりすぎ、組織片がスライドグラスからはがれ落ちてしまい、現在までに良好な染色標本が得られていない。 実験としては、抗lat1抗体、あるいは抗oatp3a1抗体と、抗TSH抗体との二重免疫染色が理想的と考えられるが、実用に耐えうる抗lat1抗体、抗oatp3a1抗体は存在しない。そこで、現行の 1) in situ hybridization 法を行った後、抗TSH抗体で免疫染色する方法のさらなる最適化、および 2) 連続切片を用いて in situ hybridization 法、抗TSH抗体による免疫染色を行う方法を平行して試みている。
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