研究課題/領域番号 |
25461549
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西尾 久英 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80189258)
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研究分担者 |
西村 範行 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00322719)
森川 悟 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50457074)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脊髄性筋萎縮症 / SMN1遺伝子 / SMN2遺伝子 / SMN蛋白 / 交感神経β2受容体 / 交感神経β2受容体作動薬 / サルブタモール |
研究概要 |
(1)研究目的:脊髄性筋萎縮症(SMA)は、SMN1遺伝子欠失によって引き起こされる小児期遺伝性運動ニューロン病である。SMAには、これまでのところ有効な治療法がないとされてきた。最近、「患者細胞に残存するSMN2遺伝子の発現を活性化し、SMN蛋白を増加させる治療戦略」が提唱され、バルプロ酸などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC阻害剤)が使用されるようになった。しかし、HDAC阻害剤の効果は限定的である。一方、SMN蛋白が細胞内シグナル伝達経路と共役して細胞機能(細胞骨格ダイナミクス等)を制御していることも明らかにされつつある。そこで、研究者らは、細胞内シグナル伝達経路を標的とし、SMN蛋白低下に基づく細胞機能異常を修正する治療を考案するに至った。 (2)研究計画:初年度は、「交感神経β2受容体作動薬(β2-adrenergic agonist)であるサルブタモールが、交感神経β2受容体(β-adrenergic receptor)下流の細胞内シグナル伝達経路を通じて、SMN2遺伝子の発現に与える効果」の有無を検証することにした。 (3)研究結果:SMA患者由来線維芽細胞にサルブタモールを投与したところ、投与後8時間以降にSMN蛋白が増加した。また、その増加の程度は、サルブタモールの投与量と関連していた(用量依存性が認められた)。さらに交感神経β2受容体下流のPKAを阻害する[PKA Inhibitor 14-22 Amide, Cell-Permeable, Myristoylated]を投与したところ、サルブタモールによるSMN蛋白の増加は抑制された。 (4)結論:交感神経β2受容体下流の細胞内シグナル伝達経路は、SMN蛋白増加に関与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SMA患者由来線維芽細胞にサルブタモールを投与したところ、SMN蛋白が増加した。これは、Angeloziらの報告(J Med Genet 2008;45:29-31)と一致し、現在ヨーロッパで行われているサルブタモール治験を支持するデータである。 しかし、サルブタモールによるSMN蛋白増加は、サルブタモール投与からかなり遅れても認められる現象であった。私たちの実験では、SMN蛋白増加は、サルブタモール投与後8時間以降に認められた。Angeloziらの報告でも、SMN蛋白増加はサルブタモール投与後2時間以降に認められている。このことは、従来から知られているサルブタモールの即効性と相容れないものであり、奇異な感じがする。 そこで、私たちは、このサルブタモールによるSMN蛋白増加の効果が、交感神経β2受容体および交感神経β2受容体下流のシグナル伝達経路を介するものであるか否かを確認する必要があると判断して、そのための実験を行った。 交感神経β2受容体下流のPKAを阻害する[PKA Inhibitor 14-22 Amide, Cell-Permeable, Myristoylated]を投与したところ、サルブタモールによるSMN蛋白の増加は抑制された。このことより、サルブタモールによるSMN蛋白増加も、PKAが関与する反応であることが明らかになった。 私たちの研究は、サルブタモールによるSMN蛋白増加およびその機序に関してすでに非常に明瞭な結果が得られていて、「研究はおおむね順調に進展している」と考えて良いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
私たちの研究で、交感神経β2受容体下流の細胞内シグナル伝達経路は、サルブタモール投与時のSMN蛋白増加に関与していることが明らかになった。 今後は、交感神経β2受容体下流の細胞内シグナル伝達経路がSMN2蛋白増加とどのように関わっているかを明らかにしていきたい。SMN2蛋白増加に関しては、以下の3つの機序が考えられる。すなわち、(1)SMN2遺伝子の転写活性が上昇している、(2)SMN2遺伝子のエクソン7のスプライシング修正が効率よく行われている、(3)SMN蛋白の安定性が改善している、あるいはSMN蛋白の分解が抑制されている、の3つの機序である。私たちは、サルブタモール投与によって、いずれの機序が動いたのかを解明する予定である。 また、以上の研究を進めることによって、交感神経β2受容体下流の細胞内シグナル伝達経路の働きがさらに解明されるものと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
注文した試薬・物品の入荷が遅れているために、支払いもなく、次年度使用額が生じた。 注文した試薬・物品の入荷があり次第、予定通りに研究を進める。
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