研究課題/領域番号 |
25461550
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高田 哲 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (10216658)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 極低出生体重児 / 音声解析 / 行動観察 / 共同注意行動 / 表出性言語発達 |
研究実績の概要 |
(研究の背景)極低出生体重児(VLBW;出生体重1500g未満)では、明らかな障害を持たなくても、しばしば、不注意行動や表出性言語発達の遅れを認めることが知られている。本研究の目的は、正常体重児(NBW)とVLBWを対象に、修正月齢6か月から2歳までの継時的な音声解析・行動評価を通じて、1)両者の表出性言語発達の相違を明らかにする、2)自閉スペクトラム症と定型発達児における乳幼児早期の言語・行動発達の違いを明らかにすることの2点である。 (研究方法)研究者が運営するVLBWとその母親を対象とした親子教室に参加している母子を対象に、母親との自由遊びの場面での子どもの音声を継時的に収録した。1回の収録時間は約30分で、1収録あたり50語前後の音声を解析用音声データとした。これらの音声データを0.01秒ごとにフォルマント解析を行って、母音と子音の構成比、各母音の構成比を算出した。さらに、修正24か月に達した時点で、自閉症行動チェックリストに基づいた行動観察評価、MCHAT並びに発達行動テストを実施した。 (結果)現在までに、VLBW 31例、NBW 45例の行動観察を終えるとともに、VLBW 8例についての経時的音声データの収録を終えた。ビデオ録画解析に基づいた行動観察から、VLBWでは共同注意行動においてNBWと比べて発達が遅く、14項目中8項目において有意に通過率が低いことが判明した。現在までの一連の研究を通じて、行動観察法の信頼性検討を行い、極めて信頼性の高い評価法を確立した。これまでに得られた成果を国際学会に発表するとともに、さらに収録音声データ数を増やし、表出性言語発達との関連性について解析を行う予定である。本研究を通じて、VLBWの言語、行動発達の特徴と両者の相互関係が数値データとして明示でき、今後、より早期からの支援が可能になると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究から、自閉スペクトラム症に関連した信頼性の高いビデオ行動観察法を確立できた。さらに、これらの観察法を用いて、正常体重児(NBW)と極低出生体重児(VLBW)との共同注意行動の差を明らかにすることができた。音声解析に関しては、現在までにデータ収集が可能であった症例数は当初の予定より少ないものの、1年6か月にわたる継時的な記録が実施できている。すでに国内学会において研究成果の一部を発表しているが、平成27年度には国際学会でも発表を予定している。音声解析データについては、防音設備の整った部屋で丁寧に収録していることから、細部まで解析が可能となっている。今後、症例数が増えれば、表出性言語発達についての特徴が明示できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、従来の計画を遂行するとともに、歩行時のバランス機能測定も実施し、より多くの視点から行動発達と表出性言語発達との関連性について検討する。個人による音声の差もあるため、同一の対象児において継時的にデータ収集を行うことに焦点を置く予定である。また、今回の研究では、音声解析時に防音室を使用しているため、音声収録の精度を従来に比べて高めることが可能となった。これまでの収録環境下では、鑑別の難しかった子音解析についても可能になるものと期待している。さらに、母音解析に関してもより正確な解析が可能になると予想している。これらの一連の結果より極低出生体重児(VLBW)の言語並びに行動発達の特徴と両者の相互関係が数値データとして明示できると考えている。今後、自閉スペクトラム症の発生頻度が高く、ハイリスク集団とされているVLBWに対して、より早期からの支援が可能になると思われる。また、本研究で確立された行動発達観察、音声解析の手法を一般の1歳6か月健診にも応用したいと考えている。そのためにも、ハイリスク児をスクリーニングする方法の開発が今後必要になると予想され、新たな研究展開を図って行きたいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
・極低出生体重児(VLBW)を対象に継時的に音声を収録しているが、冬季にインフルエンザが流行したことに伴い、一部の収録を翌年度とした。 ・研究協力者への謝金を用意していたが、予定していた大学院生以外にも無償での協力が得られるようになった。 ・国際学会における成果発表、論文出版を2015年度に計画しており、その費用に充てるために一部の費用を先送りした。
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次年度使用額の使用計画 |
・2015年度に音声収録を延期した症例についての再収録を実施するため、それらの費用を当初計画より増額する。 ・謝金として計上していた予算を減額し、同時に行っている動作解析、発達評価に必要な物品費として使用する。 ・現在得られている成果を国際学会、国内学会に積極的に発表していくため、それに関連する費用として計上する。
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