研究課題/領域番号 |
25461563
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
竹宮 孝子 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (70297547)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Arcadlin / arcadlin knockout mice / Open field test / Light-dark test / 多動性衝動性行動 / ADHD / Morris water maze / passive avoidance test |
研究実績の概要 |
平成26年度は海馬の生理的な神経可塑性におけるArcadlinの役割を調べるために、記憶・学習機能を中心にマウスの行動学的解析を行った。16週令雄の野性型マウス(WT)とarcadlin knockout mice (acad-/-)を同環境で飼育し行動実験を行った。 Open field testではWTよりacad-/-の方が有意に速いスピードで歩き、一定時間内の歩行距離は有意に長かった。Light-dark testでは、暗所と明所を分けるドアを開けてから暗所においたマウスが明所に初めて出るまでの潜時がacad-/-で有意に短く、1回の明所滞在時間は有意に短く暗所から明所への移動回数はacad-/-の方が多い傾向を示した。つまり、Open field test、Light-dark testの結果から、acad-/-は新しい環境下では行動量が増え、明るい場所に飛び出すなど衝動的な行動もすることがわかった。 次に、社会性評価のためにWT同士、acad-/-同士のペアでBoxに入れて互いの干渉を見るSocial InteractionとNest形成を観察したが、2匹間の接触回数や時間に有意な差はなくNest形成にも有意な差は認められなかった。 続いて、海馬記憶を見るためにMorris water mazeを実施したところ、最初から前半の学習プロセスにおいては、acad-/-の方がgoalに達するまでに時間がかかり、より長い距離を泳いでいることがわかった。しかし、後半の記憶学習効果はWTと差はなく、最終的な学習到達度にも差はなかった。また、痛みを伴う記憶へのArcadlin の作用を見るためにpassive avoidance testを行ったが、有意な差は認められなかった。 以上の結果から、acad-/-はWTに比べて新しい環境におかれた場合に総行動量と衝撃的行動が増えるものの、記憶学習機能は低下していないのではないかと考えられた。25年度に得られたてんかん性と26年度に得られた多動性衝動性行動と記憶学習機能の保持という結果から、Arcadlinはattention deficit hyperactivity disorder (ADHD)に関係している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画に示した実験結果から、生理的な脳機能におけるArcadlinの役割が明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
計画段階では、海馬のてんかん発作および記憶学習機能に対してArcadlinは何らかの作用を持っていると予想していたため、平成27年度は、刺激後の海馬神経細胞の樹状突起スパイン形態へのArcadlinの作用を観察しようと考えていた。ところが、26年度に実施した実験の解析結果から、Arcadlinは海馬の記憶学習機能には影響は少ないと考えられたため、海馬のスパイン形態と記憶学習機能と結びつけて考えるのは難しいと考えられた。一方、25年度、26年度に得られた結果から、ArcadlinがADHDに関わる可能性が新たに浮上してきたため、平成27年度はその延長として、Arcadlinの細胞内情報伝達で重要な役割を果たしているTao2に焦点を絞り、Tao2遺伝子欠損マウスを用いて多動性衝動性行動における細胞内signaling pathwayの解析を行うことに変更した。また、ヒトのADHDでは症状に関連して脳部位(前頭前皮質、大脳基底核、小脳虫部)の委縮が認められることがわかっている。acad-/-において行動実験で観察された反射的反応に関係が深い線条体(尾状核、被殻)や淡蒼球(腹側、外側)の体積がWTと比較して小さくないかどうか、小動物用MRIを用いて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に使用したマウスは、当施設内での繁殖が円滑に進まなかった関係から共同研究者から譲渡を受けて実施した。そのため、繁殖・飼育に必要な費用が軽減した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は行動学的解析と画像解析を並行して行うため、それに必要な人件費やマウス数の確保が必要となる。26年度に発生した次年度使用額と合わせて研究費を有効に活用する計画を立てている。
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