研究課題/領域番号 |
25461570
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
西 芳寛 久留米大学, 医学部, 講師 (20352122)
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研究分担者 |
太田 啓介 久留米大学, 医学部, 准教授 (00258401)
馬田 敏幸 産業医科大学, アイソトープ研究センター, 准教授 (30213482)
松石 豊次郎 久留米大学, 医学部, 教授 (60157237)
御船 弘治 久留米大学, 医学部, 准教授 (70174117)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | レット症候群 / グレリン / デカン酸修飾型グレリン / 脳発達 / 発達障害 / トランスレーショナルリサーチ |
研究概要 |
本研究に関連して、H.25年度に①~⑤の解析を実施した。①.RTTマウスの脳内グレリン含量・発現量の測定。②.グレリン投与によるRTTマウスの生命予後への影響の解析。③.RTTマウスへのγ線照射量の決定。④.GFP-Tgマウスからの骨髄細胞の回収とRTTマウスへの移植。⑤.骨髄移植・グレリン投与の併用療法によるRTTマウスへの病状改善効果の検討。 上記の解析により、以下の 1) ~5) が判明した。1).RTTマウスの脳内のデカン酸修飾型グレリン量は、コントロールと比較して、ペプチド量・mRNA発現量ともに低下していた。2).オクタン酸修飾型グレリン(3.0 micro-g/day)の連日投与で、RTTマウスの神経症状の進展が防止された。3).RTTマウスへのγ線照射の至適量は(骨髄移植の前処置としての)、野生型マウスと同等量の 10.5 Gy 前後であった。4).RTTマウスへの骨髄移植は、野生型マウスと同様にスムーズに施行できたが、移植後の骨髄細胞生着の臨界期(2週間)を超えて生存するRTTマウス個体は得られなかった。5).前述の 4) の状況により、現時点では、「骨髄移植とグレリン投与の併用効果」の検討は未施行に終わっている。 H.25年度中に達成された研究成果、特に 1), 2) の内容)は、重症の発達障害疾患であるRTT症候群に対する「グレリンの治療効果」を示唆している。この成果は、「RTT症候群に対するグレリンの臨床応用」に繋がる画期的なものであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究実績の概要」で列記した H.25年度の予定分の検討項目①~⑤について、①,②,③ の項目については検討を完了している。これらの検討によって得られた具体的な成果については「研究実績の概要」1), 2), 3) に記載すみであるが、この内で特にグレリンの連日投与(腹腔内投与)によるRTTマウスの神経症状(Mobility, Gait, Reflex, Tremor, Breathing rhythm, General condition の5項目の総合点)の改善効果が有意差を持って確認された意義は大きい。この「グレリンによるRTTマウスの神経学所見の進展防止効果」の確認については、この知見単独でも充分に本研究の達成度を高めるものであると考える。 その一方で、検討予定の④⑤の項目については、上記の「研究実績の概要」4), 5) に記載した状況となっている。これらの問題点の根源は(現時点では)、骨髄移植マウスの「ドナー」(GFP-Tgマウス)と「レシピエント」(RTTマウス)の組織適合性の問題であり、このために移植後の長期生存(BMT後 2週間以上)個体が得られないものと考える。レシピエントとして野生型マウス(BL6/J)を使用した骨髄移植では、移植後の長期生存個体が、一定の成功率で特に問題なく得られていることから、骨髄移植の手技上の問題はクリアされていると判断する。しかしながら、RTTマウスをレシピエントとした GFP-Tgマウスからの移植骨髄の生着は達成されていない事から、検討項目④,⑤ については、当初予定されていた解析の進捗がやや遅れ気味となっている。 上記に示すように、計画していた「5項目中の3項目」で計画当初の予定以上の成果が得られ、残りの「5項目中2項目」では、計画当初の予定を若干下回る進展となっている。全体として5項目中の3項目で「予定以上の進展」はあるため、過不足分を平均することで「現在までの達成度」について「おおむね順調に進展している」という自己点検の評価とする。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で記載した 1), 2) の解析結果に基づいて、次年度(H.26年度)は、本来の研究目的である「グレリンの投与(単独投与)によるRTTマウスへの治療効果」についての論文作成を行う。作成予定の論文の要旨は以下の a)~b)とする。 a).胎児期~生後の脳発達ステージに応じて脳内のグレリン(C10-グレリン)含量・産生量が変動する。b).重症発達障害のレット症候群のモデルマウス(RTTマウス)では、生後の脳発育障害(脳の湿重量の低下)とともに脳内のグレリン産生量・脳内のグレリン含量も低下している。C).RTTマウスでは循環血中のグレリン濃度(Total Ghrelin)も低下している。D).RTTマウスでは、生後発育に伴って神経症状(Mobility, Gait, Reflex, Tremor, Breathing rhythm, General condition)の進展・悪化がみられる。E).活性型グレリン(C8-Ghrelin)をRTTマウスの腹腔内に連日投与すると、一定期間、上記の神経所見の進展が緩和される。 これに加えて、上記 4), 5) の問題点を克服する目的で「別系統のGFP-Tgマウス」(からの骨髄細胞を用いた骨髄移植の再検討を進める(検討項目④⑤の再検討)。この別系統のGFP-Tgマウスについては、すでに本研究の分担研究者・研究代表者の下で飼育・繁殖中であり、H.26年7月後半から、同マウスの骨髄液を使用した骨髄移植実験を開始する。 検討項目 ④, ⑤ の「再検討」が順調に進まない場合には、研究方針を一部変更する。具体的には、研究の方向性を「グレリン単独投与」によるRTTマウスへの治療効果の解析をより重点的に行うことで、本研究の責務を果たすように修正していく。この場合、新たな検討項目(⑤-2)として、γ線被爆による身体障害に対するグレリンの保護効果について、野生型マウス(C57BL/6J)を用いて「造血障害に対するグレリン投与の効果」を中心に追加検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
3年間(H.25-27)の期間を想定した研究実施計画に基ずく予算配分であり、実際の支出については、初年度の物品費・その他の支出額は、当初予定分より若干少なく収支した。このため、規定に基づいた手続きの下、H.25年度の予算残額を次年度に引き継いでいる。 今年度(H.25年度)の当該助成金額(残金)と次年度請求額とを合わせて、主に物品費として次年度(H.26年度)以降で使用させていただく。物品費の内訳としては、消耗品(試薬、ディスポ実験器具、動物飼料・飼育代金)への支出が主となる。物品費のほかに、論文投稿代金、英文添削費用などの諸経費(雑費)も計上する。
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