ATM欠損マウスを用いてT細胞分化を検討した。T細胞は胸腺内でCD4、CD8二重陰性細胞(DN細胞)からCD4、CD8二重陽性細胞(DP細胞)へと分化する。この過程でT細胞受容体のV(D)J領域で再構性が起こる。ATM欠損マウスではこのV(D)J領再構成がスムーズに進行しないためDN期、DP期で細胞分化が停滞することが明らかとなった。V(D)J領再構成過程はRAGによって切断されたV(D)J領域のゲノムDNAが非相同末端結合によって結合する。この際RAGによって生じたDNA2重鎖切断はDNA損傷として認識され、ATM依存のDNA損傷応答機構が活性化され、細胞周期停止を行いその間に非相同末端結合を行う。しかしATM欠損細胞ではRAGによってDNA2重鎖切断が起こっても、細胞周期停止が起こらず、DNA2重鎖切断をかかえたまま細胞周期が進行してしまい、染色体転座が起こることが明らかとなった。しかし染色体転座のみでは腫瘍化には十分でないことが明らかとなっている。染色体転座によって何らかの腫瘍化に係る遺伝子群の発現が変化することが予想される。そこで、どういった遺伝子群が変化するか、DN期細胞を満ちいて発現アレイ解析で検討した。その結果、ケモカインや自然免疫にかかわる分子がATM欠損細胞では発現量が変化することが明らかとなった。こういった遺伝子群の発現上昇が腫瘍化とどのような関係にあるか、今後一つずつ検討していきたい。
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