研究課題/領域番号 |
25461592
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋井 佳子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60343258)
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研究分担者 |
岡 芳弘 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20273691)
宮村 能子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20379796)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 早期探索臨床試験 / 同種移植後免疫療法 / WT1 / 免疫モニタリング |
研究実績の概要 |
Wilms tumor gene (WT1遺伝子)は、がん遺伝子様の働きをもち、その転写物であるWT1蛋白は小児ALL、AML,リンパ腫など悪性血液腫瘍を含むほとんどの悪性腫瘍細胞の核や細胞質に存在する。これを標的としてWT1 ペプチドワクチンが開発された。本研究では臨床研究をおこない得られた検体を用いて以下のことをおこなった。 [臨床研究]「WT1 ワクチンを用いた難治性小児血液腫瘍患者に対する同種移植後免疫療法 第2 相試験」をさらに推進し有効性、GVHD を含めた安全性に関するデータを蓄積した。現在、予定症例数20例が登録され(2例が不適格)18例が登録され登録終了となった。うち11例が寛解を維持しており、本邦および海外での学会で発表した。また基礎研究の結果をふまえて同種造血細胞移植後の後再発予防に対する新しい治療法の開発をおこなっている。 [基礎研究]同種造血細胞移植後のWT1 ペプチドワクチンによる移植片対白血病効果、がん免疫系全体の解明としてWT1 ペプチドワクチン接種患者の末梢血、骨髄を定期的に採取し抑制系を含めたWT1ペプチドによって引き起こされた免疫系の変化に関する検討をおこなった。おもにフローサイトメトリーを用いて継時的にWT1特異的キラーT細胞数、そのフェノタイプをワクチン接種前後で検討した。また寛解例、再発例において比較し寛解例ではワクチン接種前後の増加率が高いことを見出した。さらに制御性T細胞など抑制系T細胞に関しても検討しており解析中である。本研究でおこなった同種造血細胞移植後の免疫療法が有効となれば絶対予後不良例に対する救命になるばかりでなく移植前処置の軽減が可能となり、小児では重要な問題である晩期障害の回避につながりより質の高い予後が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「WT1 ワクチンを用いた難治性小児血液腫瘍患者に対する同種移植後免疫療法 第II相試験」を遂行し、全例で2年を経過した。本探索的臨床試験において予定登録数は20例であったが2例が不適格例であった。このため18例の解析となりうち11例で寛解生存(1例は因果関係のない有害事象による死亡)が得られている(観察期間24~77か月、中央値 39か月)。このうち造血細胞移植学会の全国調査報告によると3年生存率は25%程度であると考えられる非寛解期および第三寛解期以降の移植例7例において4例の長期寛解生存がえられた。有害事象は3例で移植片対宿主病の増悪がみられたがいずれもステロイドにより改善し、同種造血細胞移植後にWT1ペプチドワクチンを接種する治療は安全な治療法であると考えられた。また免疫モニタリングを平成25年より継続しておこなっており全例でWT1特異的HLA2402拘束性tetramerを用いて末梢血および骨髄中のWT1特異的キラーT細胞の検討をおこなうことができた。さらに寛解例、再発例にわけて血液1mL中のWT1特異的キラーT細胞の絶対数、ワクチン接種前後を比較した増加率と臨床経過との関連を検討した。寛解例で絶対数の増加率が高いだけでなく骨髄中でも同様に高値であった。このことはWT1ペプチドワクチンによってもたらされた臨床効果であることを意味する。さらに寛解維持症例ではワクチン開始後からEffector memory T細胞およびCentral memory T細胞が増加し、1年以上にわたり維持されていることが明らかとなりWT1ワクチンにより出現したWT1特異的キラーT細胞による抗腫瘍効果はメモリー機能を用いて維持されていることを示すものと思われる。以上を2014年American Society of Hematology、日本血液学会いずれも口演において発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本探索的臨床試験の結果から難治性小児血液悪性腫瘍に対して、癌ワクチンを移植後に治療の一環としておこなうことの有用性が示された。すなわち従来の血細胞移植が最終的治療とされてきた概念を覆すものであり新たな知見と考えられる。このため現在当院未来医療センターデータセンターの支援をうけて論文化を目指している。またPD-1や制御性T細胞など抑制系の検討のために抗体を購入し、フローサイトメトリーの条件設定をおこなっており今後、蓄積した検体を用いて測定する予定である。臨床においては探索的臨床試験において安全性と有効性が認められたため、有効性を検討する第二相試験を予定している。本探索的臨床研究において6例の再発症例が見られたことおよびメモリーT細胞の重要性があきらかになったため、さらに抗腫瘍免疫効果を強化することを目的としてヘルパーペプチドを加えたHLA A2402,0201拘束性キラーペプチドからなるカクテルワクチンを用いる新たな臨床試験を計画しており、研究計画書の作成を開始した。作成においては当院未来医療センターの支援を受ける予定である。また基礎研究としてサイトカインプロファイルをおこなうために血清を蓄積して全例でおこなうことができており寛解例、再発例において比較するなど現在解析中である。WT1特異的キラーT細胞を3群に分け、リアルタイムPCR法を用いた種々のサイトカインを定量する方法を検討しているが、得られる細胞数が微量でありリアルタイムPCR法による検出量の定量性に関する検討をおこなっているところである。フローサイトメトリー法による免疫モニタリングはほぼ順調に進行しているが、遺伝子発現解析に関してはやや遅れている。バイオインフォマティクスに関する専門家の支援を受けることを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で用いるWT1特異的テトラマー抗体が製造中止となった。新規テトラマー抗体において品質の検討と保存における安定性、過去に用いたテトラマーとの比較が必要となり比較検討に時間が必要となった。この検討によって新規テトラマー抗体は溶解後の安定性が低いことが明らかになり測定精度を高めるために同一症例の検体を1回で測定する必要が生じた。このためワクチン接種期間が長くなる2年目以降はWT1テトラマーを含めモノクローナル抗体の使用頻度、使用量が少なくなった。またデータ固定に時間がかかったため1年Leukemia Free survivalを主要評価項目、有害事象検討の検討が遅くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本早期探索的試験の結果として1年Leukemia Free survivalを論文化するために当院未来医療センターのデータセンターに統計学的事項の検討を依頼しており、支出はH27年度となる。本試験は1年Leukemia Free survival、安全性が主要評価項目であったため3年Leukemia Free survivalを検討するための新たな研究計画書の作成、倫理委員会審査、およびデータセンタ―支援依頼に対する費用が発生する見込みである。このため本年度の使用額が減額されている。またフローサイトメトリー法による免疫モニタリング方法の構築をおこなう。
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