研究課題/領域番号 |
25461593
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福田 誠司 島根大学, 医学部, 准教授 (30273147)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 急性白血病 / 髄外浸潤 / 中枢神経浸潤 / ケモカイン |
研究実績の概要 |
急性白血病が中枢神経系に浸潤する原因としてケモカインに対する反応の亢進が原因の一つと考える。ケモカインは白血病細胞や正常の血液細胞をケモカインに向かって遊走させる作用を持つ物質である。これまでに私たちは急性骨髄性白血病の原因遺伝子であるFlt3/ITDがケモカインCXCL12に対する細胞遊走能を亢進させることを報告した。今年度の研究では、以下を明らかにした。Flt3/ITDによって生ずるケモカインCXCL12への遊走過剰反応はCXCL12に対する受容体CXCR4が減少しているにもかかわらず引き起こされるが、これに一致してCXCL12刺激直後に起きるカルシウムの細胞内流入もFlt3/ITD 存在下では少なくなることが分かった。更に、CXCL12に誘導される細胞内のMAPK、Crebなどのリン酸化は、Flt3/ITDによって亢進しないことが分かった。すなわち、CXCL12が細胞遊走を亢進する原因はCXCL12の量的な増大ではないことを示唆する。CXCL12の量的な増大が起きないにもかかわらず、CXCL12によって変化を受ける遺伝子発現はFlt3/ITDの存在下で大きく変動した。その中でFlt3/ITD陽性細胞では、Rho-associated kinase-1の発現が亢進していた。一方、この発現亢進を阻害することで、Flt3/ITD陽性細胞のCXCL12に対する細胞遊走は減弱した。したがって、Flt3/ITDによって生ずるCXCL12に対する細胞遊走亢進は、Rho-associated kinase-1の発現亢進が原因であることを見出した。また、Flt3/ITDはケモカインCCL2に対しても細胞遊走を亢進することも見出した。このようにFlt3/ITDによるケモカインへの細胞遊走亢進を反応は、急白血病細胞が中枢神経だけでなく、様々な臓器、組織に浸潤する際の分子機構の一つと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと予定していた分子群の同定は異なる方法で達成できた。しかし、中枢神経に浸潤する際に関わるのかどうかは不明であるので、更に検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
このようにFlt3/ITDはケモカインCXCL12だけでなく、CCL2にも細胞遊走亢進を引き起こし、急性骨髄性白血病細胞が中枢神経だけでなく、様々な臓器、組織、あるいは骨髄に浸潤する際の分子機構の一つと推測され、これらを阻害することが中枢神経だけでなく、様々な臓器、組織、あるいは骨髄への白血病細胞の浸潤を抑制することに結び付くと考える。 今回同定したRho-associated kinase-1の阻害剤は肺高血圧症でも認可されている薬剤である。今後は、動物モデルなどを用いてFlt3/ITD陽性急性白血病に対してRho-associated kinase-1の阻害が有効であるかを検討したい。また、同時に副作用などが発現しないかどうかの検討も行う必要もある。 また、この他に中枢神経浸潤に関わる分子の同定を行っているが、それらの機能的な意義に関しては解析ができていないので、それらに関しても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中には予定した実験の進捗が早くなり、論文の作成に着手することができた。実際の実験よりも論文の作成に時間を要したので、予算執行が予定よりも少なくなった。一方で、研究協力者が産休に入ったので、実際の研究進捗にも変化が起きたことも理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の目標の研究を可能な限り遂行するために、予定通りの予算執行を行う。実際の実験以外にも国際学会発表、更に論文作成などの費用に充填する。
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