研究実績の概要 |
申請者らは、プリオン遺伝子欠損マウス(PrP-KOマウス)にインフルエンザウイルスを感染させた結果、野生型マウスと比べて、致死率が高いことを見出した。この結果は、プリオン蛋白質(PrP)はインフルエンザの重症化の阻止に関与していることを示唆する。そこで本研究では、PrP-KOマウスを用いたインフルエンザウイルス感染試験を実施し、インフルエンザの重症化におけるPrPの生体機能を明確にすることを目的とし研究を実施した。 平成25年度は、ウイルスを感染させた野生型マウスと比較し、PrP-KOマウスでは肺において、1)ウイルスの早期の複製が認められ、これが原因で炎症性サイトカインの過剰産生が起こること、2)肺サーファクタントの血中への漏洩により、重症化が起こっていることを明確にした。 平成26年度は、抗PrP抗体をウイルス感染前の野生型マウスへ前投与することで、ウイルス感染後の生存率や体重減少を大幅に改善できることを見出した。さらに、マウス肺の初代培養系を構築することに成功し、この系を用いた解析から、Src family kinase(SFKs)の阻害剤(Dasatinib, PP2)の培地への添加により、抗PrP抗体の予防効果が消失することを見出した。 平成27年度は、抗PrP抗体をウイルス感染前に投与したマウス肺ではSFKsのリン酸化が認められたことから、抗PrP抗体前投与によるインフルエンザの重症化の予防効果には、抗体前投与による肺でのSFKsの活性化によるものであることを明確にした。 以上の結果を踏まえ、この抗PrP抗体前投与によるSFKsの活性化が、インフルエンザの予防効果にどのように関与しているのかについて現在、解析中である。これと併行し、抗PrP抗体を用いたインフルエンザの予防について、特許出願を完了し、論文投稿中である。
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