研究実績の概要 |
対象としていた家族性白血病5家系全てのエクソーム解析が終了した。高密度SNPアレイは4家系、網羅的遺伝子発現解析は予算の都合上1家系のみの解析となった。エクソーム解析より1家系の白血病罹患者に共通のアミノ酸置換を伴うETV6胚細胞変異が認められた。ETV6は小児急性リンパ性白血病(ALL)で最も頻度の高いETV6-RUNX1融合遺伝子を形成する遺伝子として広く知られ、その機能喪失によりALL発症と関与している事は認識されていたが胚細胞変異の報告はなかった。しかし2015年に我々と同じ家族性白血病の解析をとおしてETV6胚細胞変異を認めた報告が3報続いた(Zhang et al. Nature Genetics; Noetzli et al. Nature Genetics; Moriyama et al. Lancet Oncology)。既報告ではいずれも血小板低下を伴っており、我々の症例では血小板数が正常である点が異なる。既報告では機能解析をとおして変異型ETV6がドミナントネガティブ効果により正常機能を喪失すること、細胞内局在に異常をきたし通常核内に存在するETV6蛋白が細胞質に局在すること、などが証明されている。我々の症例で認められたETV6変異についても同様の解析を計画中である。 本研究をとおしてETV6胚細胞変異が小児ALLに存在する事が明らかとなった。米国のMoriyama らの報告では4,405例のALL患者でETV6のターゲットシーケンスが施行され35症例に胚細胞変異を見出し頻度は約1%とされる。ETV6胚細胞変異は、遺伝性がん症候群の代表格として知られるTP53胚細胞変異に起因するLi-Fraumeni症候群ほどではないが、既報告からは他のがん種においてもがん化に関与していることが想定される。今回のETV6変異の機能解析をとおして発がんの新規発症機能を見出したい。また、小児ALL患者に1%存在するとされるETV6胚細胞変異患者のスクリーニングの必要性、それら患者の治療方針および治療終了後のフォローアップ方法についても検討されるべき重要な課題と思われる。
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