研究課題
基盤研究(C)
赤血球酵素活性、赤血球eosin 5’-maleimide (EMA)結合能、イソプロパノール不安定性試験に異常を認めなかった原因不明の溶血性貧血症例のDNAサンプルを用い、イルミナ社HiSeq2000シークエンサーにより全エクソーム解析を行った。その結果、1歳未満の17症例のうちの5例にCOL4A1遺伝子に変異を同定した。全例ミスセンス変異のヘテロ接合体であり、子宮内あるいは出生直後に先天性の中枢神経奇形の合併で発症し、新生児早発黄疸を認めていた。生後1~2ヶ月の間、赤血球輸血を必要とするが、その後は輸血から離脱するものの慢性溶血性貧血が続くという類似した臨床経過を呈していた。基底膜は臓器構造形成・再生に重要であるが、IV型コラーゲンは、三種のヘテロ三量体(α1-1-2、α3-4-5、α5-5-6)が互いに結合してネットワークを形成し、ラミニンと共に基底膜を構成する。COL4A1はIV型コラーゲン1型サブユニット(α1)をコードする遺伝子であり、従来IV型コラーゲン異常による先天性疾患としては、Alport症候群や孔脳症・裂脳症などが知られていた。COL4A1変異症例の赤血球形態観察で、奇形・破砕赤血球が観察されることから、本遺伝子変異は先天性の微小血管障害による機械的な溶血を来すことが考えられた。先天性溶血性貧血の病因は、ヘモグロビン、赤血球膜骨格蛋白および赤血球酵素のいずれかに生じた質的・量的な異常が病因となることが明らかになっているが、COL4A1遺伝子変異はそのいずれにも属さない新しい病型であり、赤血球を取り巻く微小血管障害という新規病因による先天性溶血性貧血の一型と考えられる。新生児期に破砕・奇形赤血球を認め、中枢神経系の先天奇形を伴う溶血性貧血症例の診断におけるCOL4A1遺伝子検査の有用性を現在検討中である。
2: おおむね順調に進展している
先天性溶血性貧血の原因遺伝子として新たに2遺伝子(PIEZ01、COL4A1)が同定され、今年度の研究成果でCOL4A1遺伝子変異例の臨床経過の特徴を明らかすることが出来たことで、新生児溶血性疾患の鑑別診断におけるCOL4A1遺伝子検査の意義が明確になった。一方、遺伝性有口赤血球症の一型であるDehydrated hereditary stomatocytosis (Hereditary xerocytosis; HX)は溶血性貧血の治療として摘脾が無効あるいは禁忌であることが知られているため、効率的な遺伝子検査システム構築の必要性が高い。原因遺伝子であるPIEZO1は全長約70キロ塩基対、51個のエクソンで構成され、2521アミノ酸をコードしており、検討すべき遺伝子領域が広いことから、現在ホットスポット変異(ミスセンス変異R1358P、A2020T、T2127Mおよび6塩基挿入E2496ELE)を効率的に解析出来るシステムを構築し、本年度HXと臨床診断した親子例について解析中である。
今後も全国の医療機関で診断された先天性溶血性貧血症例の病型診断を継続していく。赤血球膜・赤血球酵素・ヘモグロビン異常症のスクリーニング検査を実施し、いずれにも異常が認められなかった症例には次世代型シーケンサー(NGS)を用いた網羅的遺伝子解析、単一あるいは数個の原因遺伝子が知られている赤血球膜異常症、赤血球酵素異常症やCOL4A1異常症については、HRM(High-resolution melting point)アッセイ法を用いた病因遺伝子変異スクリーニングを進めていく。HRMアッセイ法による原因遺伝子変異の同定率が低い場合には、既知の先天性溶血性貧血原因遺伝子を同時に解析出来るTarget capture sequencingの開発を考慮する。
機械刺激受容チャネル異常によって発症したと考えられた先天性溶血性貧血症例数が想定より少なく、遺伝子変異スクリーニングに供する試薬・消耗品の購入額が少なくなったため。次世代型シーケンサーを活用したtarget capture sequencing法の導入を図る予定であり、標的遺伝子領域の濃縮に用いるSureSelect target enrichmentシステムなどの試薬・消耗品購入時充当する。
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