研究課題/領域番号 |
25461610
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
吉川 哲史 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (80288472)
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研究分担者 |
井平 勝 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 教授 (10290165)
河村 吉紀 藤田保健衛生大学, 医学部, 助教 (30581475)
松岡 恵里奈 藤田保健衛生大学, 医学部, 助教 (80648494)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ロタウイルス / 脳症 / 突然死 / バイオマーカー / 抗原血症 / 全国調査 |
研究概要 |
1.愛知県内で2011年シーズンに経験した、5例のロタウイルス胃腸炎に合併した重症例を解析した。全例基礎疾患はなく、便中RV抗原またはRNAが陽性であった。胃腸炎症状で発症後、急性脳炎・脳症またはsudden unexpected death(SUD)の臨床経過を示し、4例が死亡した。これらの症例の血清中サイトカイン、ケモカインを通常のRV胃腸炎患児血清と比較した結果、これら5例では血清IL-10、IL-6が有意に高値だった。また、血清中ウイルスゲノムは3例で陽性、抗原量も4例で陽性だった。しかし、血中抗原量は通常のRV胃腸炎例に比して特に高値ではなかった。一方、髄液中ウイルスゲノムは2例で陽性、抗原はすべて陰性であった。また、便中のウイルスゲノム解析で1例がG1P[8]、2例がG3P[8]で、同時期に当地区で流行していた株と同一だった。 2.RV脳症、突然死例の全貌を明らかにするため全国調査を行った。2009年9月から2011年8月の2年間に、全国各施設で発生したRV胃腸炎関連重症例(脳症例及びSUD例)について調査した。1次調査の回収率は70.5%(963施設)であり、2年間で62例の脳症症例と7例のSUD例が報告された。よって本邦では年間約44例の脳症症例と約5例の死亡例が存在すると推測された。年齢分布は0から12歳で1歳にピークを認めた。SUD例の予後は全て死亡であり、脳症症例の約25%が後遺症(精神運動発達遅滞、麻痺など)を残し、約16%が死亡した。脳症例の中で予後不良群で有意にトランスアミナーゼ上昇(p<0.01)、腎機能障害(p<0.01)、低血糖(p=0.01)、及び代謝性アシドーシス(p<0.01)が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ロタウイルス脳炎、突然死例の病態解明に向けて、これまでに当施設経験した5例について、血清、髄液中のウイルスゲノム、抗原の検出率を明らかにし得た。また、ウイルスの遺伝子型決定のためのRT-PCR法を導入し自施設でのRV遺伝子型別が可能となった。それによって、これら重症例についても検索し、特に特殊な遺伝子型に感染し発症に至る可能性は否定的なデータが得られた。また、血清中のサイトカイン、ケモカイン解析の結果、IL-10、IL-6が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 2. RV脳症、突然死例の全国調査を実施し、我が国でのこれら重症合併症の発生頻度を明らかにし得た。また、臨床検査、画像検査データを解析することによって、臨床的な特徴や予後予測のためのマーカーを明らかにすることができた。これは、患者マネージメント作成のための重要な知見になると考えられる。 以上から、今年度の研究はほぼ目標通りの成果を成し得たものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
1. 新規重症合併症例のリクルート:脳炎・突然死例といった重症合併症は症例数が少ないため、病態解明のために多数例を解析するのは困難が予想される。現在、愛知県内での前方視的研究を実施しており、このコホート内からの新規例エントリーが期待される。また、各地の研究会等で重症例の意義をアピールするとともに、同様症例のウイルス学的解析を受け付けることを広く周知する。 2. リアルタイムRT-PCR法導入:多数例の解析のために、現行のPCR法では困難が予想される。よって米国CDCが報告している、リアルタイムRT-PCR法によるRVゲノム検出系を確立する。 3. エキソソーム解析:重症例の病態解明、新たなバイオマーカー検索のために、エキソソーム解析のシステム確立を目指す。本システムを用いて、患児血清中エキソソーム解析を行う。
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