研究実績の概要 |
培養ヒトメサンギウム細胞 (MCs)でToll様受容体 (TLR)3を起点とする炎症経路群検討の一環として,interferon-stimulated gene (ISG)15と炎症性ケモカイン CXCL1の発現の意義を検討した。 既報に従い,polyinosinic-polycytidylic acid (poly IC)による MCsでのISG15の発現と炎症経路群 (TLR3/IFN-β/ISG56/melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA5)/CXCL10)に関わる意義を,次に重症度の異なる腎炎の腎生検組織での ISG15の発現を免疫染色で検討した。同様に poly ICで誘導される CXCL1の発現と腎組織における染色性を確認した。 【結果】MCsにおいて,poly IC刺激は時間・濃度依存性に ISG15と CXCL1の発現を誘導した。RNA干渉法によるTLR3,IFN-βの knockdownは ISG15の発現を抑制したが,ISG56とMDA5の knockdownは関与しなかった。一方,ISG15のkonockdownはこの経路の STAT1のリン酸化とISG56,MDA5とCXCL10の発現を増強した。免疫組織染色では,重症 IgA腎症と増殖性ループス腎炎での染色性はそれぞれの軽症例と比べて低下していた。 poly ICによる CXCL1の発現は,TLR3,IFN-β,NF-κB,interferon regulatory factor (IRF) 3のknockdownにより有意に抑制されたことから,TLR3を起点としたそれぞれの経路 (TLR3/IFN-β, TLR3/NF-κB, TLR3/IRF3)が同程度関与していることが示唆された.臨床検体では,増殖性ループス腎炎検体のメサンギウム領域にCXCL1が陽性であったが,IgA腎症での染色性には乏しかった. 【結論】MCsでの TLR3を介する ISG15の発現は,STAT1のリン酸化とその下流のシグナリングを抑制し,炎症病態を制御している可能性がある。ISG15制御機構の詳細な検討は,将来的な腎炎の抗炎症療法開発に有用かも知れない。また,CXCL1の検討から他の免疫複合体性腎炎症候群に比してループス腎炎では TLR3の活性が病態に関与していることが示唆された.
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