出生直前(胎生18.5日)のTbx1neo/neo胎仔すべてにおいて、左右肺動脈が総動脈幹より独立して分岐する総動脈幹症を認めた。心臓流出路が形成される胎生12.5日のTbx1neo/neo胎仔では流出路近位部から遠位部にかけ、円錐動脈幹を大動脈・肺動脈に分割する円錐中隔隆起の形成は不十分であったが、分割の前段階である内腔のらせん構造は認められた。流出路遠位部よりさらに遠位では、動脈幹中隔隆起が低形成となり、らせん構造も認められなかった。Tbx1neo/neo胎仔における総動脈幹症は、円錐動脈幹中隔隆起、特に遠位の動脈幹中隔隆起の発達が不十分で、大動脈、肺動脈分割が起こらないために生じた表現型と考えられた。一方、Tbx1neo/neo胎仔を妊娠した母マウスに通常の10倍の葉酸を含有する葉酸過剰餌を与えると、胎生18.5日の胎仔(FA)は普通餌を与えた母マウスの胎仔(NL)と比較して、円錐動脈幹隆起の低形成と総動脈幹症が軽症化した。NLでは、心臓流出路近位で神経堤細胞数の減少が認められたが、FAではNLより細胞数増加の傾向が認められた。心臓流出路に遊走する神経堤細胞を可視化するために、神経堤細胞の遊走に必須の神経血管誘導因子Sema3cのエンハンサー領域にLacZを挿入した遺伝子操作マウス(Sema3c-LacZ)をTbx1neo/+マウスと交配し、得られたTbx1neo/neo:Sema3C-LacZ胎仔をLacZ染色した。胎生13.5の胎仔では、野生型、FA、NLのいずれも動脈幹部に染色細胞が少数存在し、この時期の胎仔では、神経堤細胞がすでに心臓流出路に遊走し、間葉系細胞に分化していることと一致していると考えられた。胎生11.5日の胎仔で同様の実験を行い、FAでNLよりも遊走する神経堤細胞数が多いことを示し、葉酸により総動脈幹症の表現型が軽症化したメカニズムを解明する。
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