研究概要 |
予備研究では少数患者の腎組織でHIFやVEGFの発現を確認したが、患者数を増やし臨床経過、腎組織と免疫染色(HIF-1α,HIF-1β,VEGF,NF-κB,TUNEL)を調べた。 ① 患者の背景:患者8名(男5女3)の腎生検時年齢中央値23.5歳(14-33)。原疾患は単心室4名、肺動脈閉鎖2名、完全大血管転移1名、ファロー四徴症1名。腎生検時のeGFR中央値は68(38-118)、CKDステージ分類はstage 1(n=2), 2(n=3),3a(n=1),3b(n=2)。7名で蛋白尿を認め、尿TP/Cr中央値1.8、4名で微小血尿を認めた。Hb中央値19.0g/dL(17-24)。最終転帰4名死亡。 ② 腎組織の検討:糸球体腫大と係蹄拡張・ メサンギウム細胞/基質増生を全例で認めた。傍糸球体装置過形成性を6名で、基底膜二重化を3名で、巣状分節性硬化を4名で認めた。8名全てHIF-1αが糸球体内皮細胞に発現し、VEGFも8名全員内皮細胞に認めた。正常コントロールでは認めなかった。一方、HIF-1βは糸球体と尿細管の細胞核に本症とコントローの全員に染色された。NF-κB,TUNELは本症、コントロール全員陰性であった。 【考察】HIF-1βは恒常的な核内蛋白とされ、本研究でも核内に発現を認めた。一方、HIF-1αは酸素濃度で制御され、正常酸素濃度ではプロテアソームの分解を受けるが、低酸素では分解が抑制され、核内へ移行しHIF-1βと結合し、VEGFやグルコースの能動輸送に関わるGLUT-1、赤血球増生を促すEPOなどの増殖因子を誘導し、低酸素に適応をはかる。 本症ではHIF-1αとVEGFの発現を認め、本症に特異的と考えられた。一方、低酸素と炎症は関係があり、HIF-1αの誘導蛋白により腎症が惹起される可能性もある。しかし、NF-κB,TUNELは陰性であり、HIF-1αやVEGFは低酸素への適応のため可能性が高い。
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